鎖から蜘蛛の巣へ、「サプライウェブ」の世界が見えてきた:サプライチェーンの新潮流「Logistics 4.0」と新たな事業機会(5)(3/3 ページ)
物流の第4次産業革命ともいえる「Logistics 4.0」の動向解説に加え、製造業などで生み出される新たな事業機会について紹介する本連載。第5回は、サプライチェーンマネジメントの進化の方向性となる「チェーン=鎖」から「ウェブ=クモの巣」へのトランスフォーメーションを取り上げる。「サプライウェブ」の世界とはどのようなものなのだろうか。
サプライウェブプラットフォーマーの可能性
サプライチェーンマネジメントは、調達先・納品先との固定的な関係を基本としています。故に、川上から川下までつなぐシステムを導入するにしても、サプライヤーやディーラーとのネットワークを形成するにしても、サプライチェーンを構成する複数の企業でそのコストを負担し、最適化のメリットを享受することが可能です。自動車メーカーや建設機械メーカーのように、サプライチェーンの中心をなす事業者が仕組みを構築し、調達先や納品先とともに全体最適を追求することもできます。
しかし、サプライウェブとなると、そうはいきません。不特定多数の調達先・納品先が相手となるからです。インターネットと同様、サプライウェブをプラットフォームとして提供し、以て収益を得る事業者が必要となります。
しかも、インターネットとは違って、情報だけではなく、モノも対象になります。無数にある情報とモノをつなぐことができるネットワークを構築しなければならないわけです。
さらに、広く多くの事業者に利用されるサプライウェブとなるためには、「あらゆるプロセスがつながること」と「本来必要のないプロセスがなくなること」を実現可能なプラットフォームである必要があります。
つまるところ、サプライウェブをプラットフォームとして提供するためには、インターネットを構築するよりもはるかに多くの投資を要します。とはいえ、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に代表されるIT革命の担い手たちが時価総額で100兆円を超えるメガプラットフォーマーに躍進したことを考えると、そのビジネスとしてのポテンシャルは計り知れないものがあるでしょう。あるいは、そういったサプライウェブプラットフォーマーの出現を予測し、自社のビジネスモデルを進化させておくことも枢要だと思います。
さて、次回からは、サプライウェブプラットフォーマーのビジネスモデルを幾つか紹介します。その第1弾は「TaaS(Truck as a Service)」です。
筆者プロフィール
小野塚 征志(おのづか まさし) 株式会社ローランド・ベルガー パートナー
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革等を始めとする多様なコンサルティングサービスを展開。2019年3月、日本経済新聞出版社より『ロジスティクス4.0−物流の創造的革新』を上梓。
https://www.rolandberger.com/ja/Locations/Japan.html
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ≫連載『サプライチェーンの新潮流「Logistics 4.0」と新たな事業機会』バックナンバー
- サプライチェーンマネジメントは新ステージへ、全体最適の範囲を拡張せよ
物流の第4次産業革命ともいえる「Logistics 4.0」の動向解説に加え、製造業などで生み出される新たな事業機会について紹介する本連載。第4回は、「全体最適の範囲の拡張」を目指す次世代のサプライチェーンマネジメントについて説明する。また、その成功例となる、ZARA、コマツ、ジョンディアのケースを見て行こう。 - 花王・アマゾン・アスクルの事例に学ぶ、デマンドチェーンマネジメントの重要性
物流の第4次産業革命ともいえる「Logistics 4.0」の動向解説に加え、製造業などで生み出される新たな事業機会について紹介する本連載。第3回は、サプライチェーンの川下にあたる流通・小売プロセスでの先進事例を紹介するとともに、「デマンドチェーンマネジメント」の重要性について説明する。 - 調達・生産プロセスにおけるサプライチェーンの革新
物流の第4次産業革命ともいえる「Logistics 4.0」の動向解説に加え、製造業などで生み出される新たな事業機会について紹介する本連載。第2回は、調達・生産プロセスにおけるサプライチェーンで起こりつつある革新について紹介する。 - 物流の第4次産業革命「Logistics 4.0」とは何か
物流ビジネスへの注目が日増しに高まる中、新たなイノベーションによって、物流の第4次産業革命ともいえる「Logistics 4.0」が起きつつある。本連載では、Logistics 4.0の動向解説に加え、製造業などで生み出される新たな事業機会について紹介する。第1回は、Logistics 4.0までの物流におけるイノベーションの変遷を解説する。 - 物流へのIoT適用を考える
日本型モノづくりの象徴ともいうべき「トヨタ生産方式」。本連載では多くの製造業が取り入れるトヨタ生産方式の利点を生かしつつ、IoTを活用してモノづくりを強化するポイントについて解説していきます。第6回は、グローバル化の進展によって重要度を増している物流でIoTを活用する考え方について説明します。