日産の工場はどう変わるのか、国内外でIoT本格導入とロボット活用拡大:スマートファクトリー(2/3 ページ)
日産自動車は2019年11月28日、横浜市の本社で会見を開き、次世代の自動車生産のコンセプト「ニッサンインテリジェントファクトリー」を発表した。
塗装工程も設備刷新、バンパーと車体の一体塗装
工場のCO2排出削減に向けて塗装技術も一新した。ボディーを低温で塗装できる塗料を採用し、ボディーと樹脂バンパーを同時に塗装できるようにした。
同時塗装のため、ボディーとバンパーは、中塗り、ベース、クリアコートという構成で統一した。環境対応で水性塗料の採用が絶対条件だったが、水性塗料は低い温度で硬化させるのが難しい。従来は140℃の焼き付け炉が必要だった。対策として、温度だけでなく、硬化剤を混ぜた2液の塗料を使用して低温での効果を実現した。
2液の塗料を使用するのは中塗りとクリアコートのみで、ベースの塗料は1液とした。ベースを2液にすると硬化させやすいが、発色させるための材料や塗装設備で高コストになるためだ。ベースには、中塗りとクリアコートの両面から硬化剤を浸透させることで、85℃での焼き付けが可能になった。バンパーと車体の色合わせが不要になることが品質面で大きなメリットとなる。高級車で要求される塗装面の平滑性も、従来と差がないという。
また、塗装ブースの空調効率を高めるため、空気中に残留する塗料の回収方法も変更した。ボディーとバンパーの一体塗装と空調効率の改善により、CO2排出量を従来比で25%削減する。塗装ブース内は温度と湿度を厳密に調整する必要があるため、その空気を循環させて再利用することで、空調で使用するエネルギーを削減する。従来は塗料が残留した空気を水に通すことで塗料のカスを回収していたが、空気に加湿されるため塗装ブースに戻すことはできなかった。
新しい塗装ラインでは、塗料が残留した空気を乾式フィルターに通すときに粉末の石灰に塗料を付着させて回収する。こうしたドライブースは従来もあったが、塗料が付着した石灰を廃棄物として処理する必要があり、処理コストが課題となっていた。日産自動車では、塗料を含んだ石灰をブロック化し、鋳造工程で鉄を生成する際の不純物除去の補助剤として再利用する。これまで購入していた石灰を、塗装ラインの石灰でまかなうため、コストが抑えられるという。
IoT化があっての自動化推進
パワートレイン一括搭載システムを始め、コックピットやヘッドライニングの組み付け、デファレンシャルギアの組み立てなど、さまざまな場面でロボットを活用するが、「ロボットをただ増やすだけでは生産効率は上がらない。むしろ設備のメンテナンスの時間が増えて生産性は落ちる。保全員の人手不足や定年退職も進んでいる。自動化を進められるのはIoT(モノのインターネット)を使ったメンテナンスや予防保全があってこそだ」と日産自動車の担当者は説明する。
栃木工場では、ニッサンインテリジェントファクトリーの導入で設備が更新されるのを機に「治具などシンプルなものを除いて、基本的にはメインラインのほぼ全ての設備」(日産自動車の担当者)を工場内のネットワークにつなげた。これにより設備のリモートメンテナンスや、機器の状態を常時監視して故障前に対処する予防予知保全を取り入れる。
工場をネットワーク化したデータ収集システムは、すでに追浜工場でトライアルを実施しており、栃木工場から本格導入する。堅牢性やセキュリティを重視して開発した。データを蓄積、分析するクラウドやサーバまでを含めて、今回新たに整備した。
工場では、ロボットやPLC、ビジョンシステム、計測器などの情報を工程ごとに「フィールドストレージ」に集める。フィールドストレージは、工場ネットワークの通信規格である「OPC UA」に変換するインタフェースとなっている。現場ではOPC UAに対応していない設備が多く、規格がさまざまであるため、フィールドストレージに一旦集約してOPC UAに接続できる形に変換するという必要がある。フィールドストレージは自社開発した。
OPC UAはドイツのモノづくり革新プロジェクト「インダストリー4.0」の推奨通信規格であり、Volkswagen(VW)も採用を表明している。日産自動車も、ルノーでの導入を視野に入れてスタンダードな規格を採用した。統一した工場ネットワークを展開すれば、将来的に各工場のデータをビッグデータとして活用しやすくなるとしている。これまでは工場内でも工程ごとにバラバラにデータを集めており、工場全体でのデータ活用が進んでいなかった。OPC UAで揃えれば、設備を更新しても上位のレイヤーでの分析を続けやすいというメリットもある。
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