オムロンが2つのAI新技術、人の経験使い軽量化したAIと学習モデルを統合できるAI:製造現場向けAI技術(2/2 ページ)
オムロンは2019年11月13日、AI(人工知能)に関連する2つの技術発表を行った。発表したのは、FA領域で熟練者の経験を注入することでデータ処理量の軽量化を実現した「欠陥抽出AI」と、学習モデルを統合することでデータを集約する負担を軽減する「Decentralized X」である。
AIに必須の「学習データ」問題を解決へ
オムロンが発表したもう1つの技術が非集中学習技術「Decentralized X」である。AIを活用するには学習モデルを作り出すための大量のデータが必要になる。しかし、必要な事象の発生数が少ない場合であったり、偏りがあったりすることで、最適なデータを集める作業が大きな負担となっており、AI活用の障壁となっている。
「こうした課題を解決し、とにかくデータを集めるという発想を捨て、自社にデータがなくてもAIが賢くなる方法を編み出すという発想で作り出したのが新技術だ」とオムロン サイニックエックス シニアリサーチャーの米谷竜氏は語っている。
新技術の「Decentralized X」は、さまざまな場所で集めたデータそのものを集めるのではなく、学習モデルを集めることで負担小さくAIを強化することを目指した技術である。個々のデータを収集するとなると、通信費用やストレージ費用などが膨大になるケースも多い他、データプライバシーの問題でそもそも集約が難しい場合なども存在するが、学習モデルを集めることで「容量も小さくデータプライバシー問題も解決できる」(米谷氏)という。
エッジコンピューティング端末などで個別で学習したモデルを集め中央サーバでモデルを統合して「より賢いAIを作る」(米谷氏)。そして、賢くなったAIをそれぞれの環境に再配布するという流れである。「学習モデルを統合するところが技術的なポイントで、その詳細は明かせない」と米谷氏は述べている。
例えば、工場などで製品の欠陥検査などをAIで強化することを想定した場合、そもそも欠陥が少なく、多様な不具合が存在し、それらを1つの工場でデータとして網羅することが難しいという状況がある。そのため個別に学習しても欠陥を正しく検出できない。一方で、生産データをクラウドに持ちだすこともできない状況もあり、全てのデータを集めて学習させることが難しい。そうした場合に、この「Decentralized X」を使えば、全ての工場の知見を集めて学習モデルを強化することができるようになる。
今後に向けては、オムロンの制御機器事業への適用を進めていく他、パートナーを募集し、他社も含めて技術を強化していくという。
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