新型μ10の3つの改良点、次世代型はDESTINY+へ〜イオンエンジンの仕組み【後編】〜:次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(16)(4/4 ページ)
順調にミッションをこなしている小惑星探査機「はやぶさ2」。サンプルを持ち帰るための帰路で重要な役割を果たすイオンエンジン「μ10」は、はやぶさ初号機で見いだした課題を解決するために3つの改良を施している。さらなる次世代型の開発も進んでおり、2021年度打ち上げの「DESTINY+」に搭載される予定だ。
将来のイオンエンジンの開発状況
最後に、今後のイオンエンジンの搭載計画について紹介しておこう。
はやぶさ初号機、はやぶさ2に続いてμ10を搭載する深宇宙探査ミッションとしては、現在「DESTINY+」が計画されている※)。DESTINY+が目指すのは、小惑星Phaethon。これはサンプルリターンではなく、フライバイ観測の探査機となるものの、はやぶさシリーズと同じく、イオンエンジンとしてμ10を4台搭載する予定だ。
※)ミッションの詳細についてはDESTINY+の公式サイトを参照
地球に戻ってくる必要が無いのであれば、イオンエンジンにとっては楽だと思いそうだが、逆に「負担がとてつもなく大きい」という。このミッションで必要になる加速量(ΔV)は、なんと毎秒4km以上。サンプルリターンのはやぶさ2が毎秒1.2kmなので、その3倍以上も大きくなってしまうのだ。
じつは、DESTINY+の打ち上げロケットは、低コスト化のためにイプシロンが使われる予定。はやぶさ2を打ち上げたH-IIAより非力なため、直接、惑星間空間に投入することはできず、まずは地球を周回する長楕円軌道に入れてから、高度を上げていくことになる。月軌道まで到達したら、月スイングバイで地球圏を脱出。ようやく小惑星に向け出発する。
月スイングバイまでに、期間は1〜2年、ΔVは毎秒2km程度必要になる見込み。それだけ地球の重力の底から出て行くのは大変、というわけだが、これが実現すれば、より低コスト・高頻度な深宇宙探査への道を開く可能性がある。
さらに、地球を周回することで、さまざまな問題が出てくる。まずは放射線だ。地球の周囲には、放射線が強い領域があり、そこを何度も通過すると太陽電池が劣化し、出力が落ちてしまう。この影響を軽減するには、なるべく早く高度を上げるしかなく、DESTINY+では4台全ての同時運転を行う計画だ。
はやぶさシリーズの同時運転は最大3台だったため、電源は3台しか搭載していなかったが、DESTINY+では1台追加する必要がある。ただ、3台の電源を4台のスラスターで使うためのスイッチは不要になるため、イオンエンジンのシステム全体としての重さはほとんど変わらない見込みだ。
4台を同時に動かすわけだから、当然ながら、必要な電力も3台のときより増える(1250W→1670W)。かといって、太陽電池を普通に増やすと、探査機が重くなってしまうので、それは避けたい。そこでDESTINY+では、薄膜軽量タイプの新しい太陽電池を採用する。これで、同じ重量でも2倍以上の発電が可能となる。
しかしエンジンが4台必要なのに4台しか搭載しないのでは、故障時の予備がないことになる。ただ前述のように、次世代のμ10は推力が12mNまで出せるめどが立っている。通常は10mN×4台=40mNで運転しておいて、1台故障時には12mN×3台=36mNにすることで、ミッションを成立させることを考えているとのこと。
DESTINY+は今のところ、2021年度の打ち上げ予定。はやぶさ2が2020年末に帰還したあと、入れ替わるように宇宙に旅立つDESTINY+についても注目して欲しい。
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