エポック社のカプセルトイが攻め過ぎている理由【後編】:寡占市場での勝ち残り術(2/2 ページ)
エポック社のカプセルトイ「カプセルトイができるまで」をご存じでしょうか。成形金型、塗装用のマスク型とスプレーガン、そして梱包用の段ボールと、実際のカプセルトイができるまでの各工程をミニチュア化した製品。そんな斜め上を行く「カプセルトイができるまで」の誕生秘話やカプセルトイづくりの難しさについて、担当者に話を聞いてきました。
玩具/カプセルトイづくりに欠かせない3Dプリンタ、デジタル技術
そして、エポック社のカプセルトイ事業、玩具事業になくてはならないのが、3D CADや3Dプリンタを中心としたデジタル技術の活用です。今回紹介した「カプセルトイができるまで」もその例外ではありません。
特に今回お話を聞いたカプセルトイ事業は前述の通り、月単位で発売する商品の数も多く、開発サイクルも一般的な玩具と比べて格段に早いという特徴があります。そのため、3D CADや3Dプリンタといったデジタルツールの存在が欠かせません。エポック社ではこうした社内のデジタル技術支援を、主力製品を手掛けるシルバニア本部に設置し、シルバニア製品の開発はもちろんのこと、全社のさまざまなモノづくりに役立てているといいます(関連記事:エポック社が「シルバニアファミリー」の製品開発で実践する3Dモノづくり)。
こうした体制が社内に整備される大きな転機となったのは、数年前の3Dプリンタブームです。このタイミングでハイエンド3Dプリンタの自社導入を決定し、これを契機に社内でのデジタルモノづくりが加速。3Dプリンタを活用した商品開発が浸透していったそうです。
このデジタル技術支援の旗振り役となったのが、エポック社 シルバニア本部 技術室 マネージャーの西野晃一さん。自ら機種やツール選定を行い、設置、運用までをこなします。「3Dプリンタに関しては現在4台が稼働しています。ストラタシスのマルチマテリアル&フルカラー3Dプリンタ『J750』が2台とデスクトップサイズの『Objet24』が1台。そして、小型光造形3Dプリンタとして武藤工業の『ML-48』が1台という構成です」(西野さん)。
これら3Dプリンタの他にも、3D CADとして、パラメトリック形状を設計する際に使用する「SOLIDWORKS」、フィギュアなど自由曲面のある形状を設計する際に使用する「Geomagic Freeform」。データ変換などの補助ツールとして「Rhinoceros 3D」と「Fusion 360」を駆使しているといいます。さらに、全社の製品を“デジタルアーカイブ化”することを目的に、過去の手作り原型のデジタル化などを実現する3DスキャナーやCTスキャナーも活用。同時に“いかなるデータも3Dプリントしたい”という思いから、データヒーリングツールとして「CADdoctor」「Geomagic Wrap」「Materialise Magics」をフル活用しているそうです。
「技術室のメンバーがこれら3Dツールを用いて、3Dデータの修正や試作支援といった全社の困りごとから、試作品を用いた受注活動支援(営業支援)、さらには将来に向けた研究開発まで、幅広いデジタル技術支援を行っています」と西野さんは語ります。
特に3Dプリンタにフォーカスすると、J750の存在は大きいといいます。導入前は、単色の3Dプリンタで試作していたので、出力後にペーパーをかけて、サーフェーサーを吹き、プラカラーを調色してエアブラシで塗るという多大な手間を掛けていたそうです。この煩雑な作業がJ750の導入で一変。「フルカラーで造形できるため、一度に複数デザインを出力し、どのデザインが最も良いかといった検証が容易に行えるようになりました。試作の手間やコスト、時間の制約などから、これまではやむを得ずどこかで妥協してモノづくりを進めなければなりませんでしたが、J750を活用してからは妥協のないモノづくり、デザインの追求が可能となりました。もちろん、開発期間の短縮やコスト削減にも大きな効果を発揮しています。現在商品展開しているもので、この3Dプリンタを活用したデザイン検証、試作のプロセスを通っていないものはほとんどないといっていいほど、社内全体で3Dプリンタがフル活用されています」と、西野さんは導入効果について説明します。
また、西野さんはJ750を単なる試作品づくりのための道具としてだけではなく、フルカラー3Dプリンタの強みをさまざまなシチュエーションに適用するための試みを進めると同時に、フルカラー3Dプリンタの性能を最大限に引き出すための工夫にも力を入れています。
例えば、シルバニアファミリーの世界観を再現した屋外型テーマパーク「シルバニアパーク」(茨城県・こもれび森のイバライド)では、実際のシルバニアの3Dデータをベースに(拡大して)、屋外展示品の一部をJ750で造形。造形品の表面にポリウレタンコーティングを施すことで屋外利用できることを検証し、テーマパークの演出に3Dプリンタを活用するという新たな適用方法を見いだしています。
さらに、これとは逆にシルバニアの人形、家具、建物の3Dデータを縮小し、正方形の小さな空間の中に閉じ込めたミニチュア製作(研究段階)にも活用。このように、技術室が主体的に新商品開発のヒントにつながるようなデジタル技術の活用方法も提案しているそうです。
そして、将来的なビジョンとしては、材料コストの削減の観点からCAEやトポロジー最適化を活用したモノづくりや、ジェネレーティブデザインに代表されるコンピュテーショナルデザインの適用に関しても興味を示しており、こうした技術に関しても少しずつ検証を進めているところだといいます。
以上、「カプセルトイができるまで」の開発秘話、カプセルトイ市場の現状、カプセルトイづくりの難しさ、そしてカプセルトイ(玩具)開発におけるデジタル技術の活用について【前編】【後編】で紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。筆者自身、たまたま見つけたカプセルトイからこんなに貴重なお話が聞けるとは思ってもみませんでした。カプセルトイの中には楽しさや面白さだけではなく、作り手のたくさんの思いや苦労が詰まっています。本稿をきっかけに、カプセルトイ開発の奥深さを少しでも感じ取っていただければ幸いです。(完)
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