クアルコム社長「5Gは電力と同じになる」、TDKとの合弁企業買収の狙いも説明:組み込み開発ニュース
クアルコム ジャパンは、東京都内でクアルコム(Qualcomm)米国本社の社長を務めるクリスティアーノ・アモン氏の来日会見を開催した。
クアルコム ジャパンは2019年9月19日、東京都内でクアルコム(Qualcomm)米国本社の社長を務めるクリスティアーノ・アモン(Cristiano Amon)氏の来日会見を開催した。アモン氏は「明日(同年9月20日)から日本でも5Gのプレサービスが始まる。まさに5Gは現実のものとなっている。スマートフォンだけでなく、あらゆる産業のワイヤレス通信に用いられる5Gは圧倒的なインパクトをもたらすだろう」と述べ、5Gがさまざまな産業分野で活用されることを強く訴えた。
アモン氏が発表した内容は、同年5月に会見を行った、Qualcomm Technologiesで4G/5G担当のシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーを務めるドゥルガ・マラーディ(Durga Malladi)氏と大きくは変わらない※)。「5Gはスマートフォンだけでなく、全てをつなげる」というのがその骨子だ。「5Gはモバイルブロードバントから始まるが、これを超えて99.9999%の信頼性が求められるようなミッションクリティカルな用途にも対応する。特に日本では、製造、自動車、エンターテインメント、ゲームなどの分野の有力企業があり、5Gはこれらの企業の競争力を高めるだろう」(アモン氏)。
※)関連記事:5Gはスマートフォンだけじゃない、クアルコム「全てをつなげるものだ」
またアモン氏は、こういった5Gの広がりを指して「5Gは電力と同じようなものになる。通信を意識することなくあらゆるものがネットワークにつながって使えるようになるだろう」とも述べている。
この他にも、ドイツのベルリンで2019年9月に開催された「IFA2019」で発表した、5G対応のプロセッサ「Snapdragon 7シリーズ」「Snapdragon 6シリーズ」についても紹介。5G対応スマートフォンを、フラグシップモデルだけでなく普及価格帯にも広げるための製品で「2019年に4Gを大きく超える勢いで立ち上がった5Gを、2020年はマスマーケットに広げられるようにしたい」(アモン氏)としている。
TDKとの合弁会社を買収する理由「5Gはアンテナモジュールが複雑」
クアルコムは2019年9月16日(現地時間)、2017年2月にTDKと共同で設立した高周波フロントエンド(RFFE)モジュールやRFフィルターの設計開発と生産を行う合弁会社RF360 Holdings(以下、RF360)の株式を全て取得し、完全子会社としたことを発表している。
今回の会見の質疑応答では、RF360の完全子会社の狙いについてアモン氏から説明があった。まず技術的観点では、3G、4G、5Gと移動通信方式が進化を重ねる中で、送受信を行うためのアンテナの構造も複雑化が進んでおり、これに対応するためにRF360傘下に収める必要があった。「3G時代は1つで済んだアンテナモジュールが、前世代の通信への対応なども含めて5Gスマートフォンでは3つ搭載する必要がある。さらに、サブ6GHzやミリ波など新たな周波数にも対応しなければならない。5Gではプロセッサだけでなくアンテナモジュールもとても複雑になっている」(アモン氏)。
デジタル回路技術のプロセッサから、アナログ回路技術のアンテナモジュールまでをカバーすることで、競合他社よりも優位な提案が可能になるとともに、新たに市場を拡大していく産業分野の顧客への対応も容易になるというわけだ。
また、RF360の保有株式を売却したTDKとのパートナーシップも継続していく方針を示した。アモン氏は「TDKは、5Gの産業分野への展開で重要なIoT(モノのインターネット)に用いるセンサーの有力ベンダーでもある。今後もしっかり協力していきたい」と述べている。
クアルコムはこれまでにも、アンテナモジュールに必要なトランシーバーやパワーアンプ(PA)などの事業を傘下に収めている。RF360の買収により、5G対応アンテナモジュールの自社生産にはほぼめどが付いたという。
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