脳内の階層的な運動情報表現を「脳内運動情報地図」として可視化:医療技術ニュース
情報通信研究機構は、ピアノ演奏のような複雑な指運動を行う際の脳内の階層的な運動情報表現を可視化することに成功した。また、大脳皮質領域の運動前野や頭頂連合野では、異なる階層の運動が同時に表現されていることが分かった。
情報通信研究機構(NICT)は2019年8月28日、ピアノ演奏のような複雑な指運動をする際の脳活動をfMRIを用いて測定し、広い脳部位で運動情報が階層的に表現されている様子を観察したと発表した。NICT脳情報通信融合研究センターとウェスタンオンタリオ大学の共同研究の成果となる。
実験では、健康な成人被験者が、11桁の数字から成る8種類の異なるキー押しの系列暗記とキー押し運動を5日間かけて練習した。具体的には、2〜3桁のキー押しのまとまり(チャンク)を4個つなげたセットとして11桁の数字のキー押しを階層的に学習。その後、暗記した数字のキー押し系列を実行している時の脳活動を測定した。
脳活動データは、多変量fMRI解析の一種であるRSA法という機械学習手法で解析。各脳部位の微細な活動パターンを3つに分類し、「脳内運動情報地図」として可視化した。3つの分類は、個々の指運動、連続した2〜3個の指運動のまとまり(チャンク)、4個のチャンクのまとまり(系列全体)と定義した。
その結果、個々の指運動の表現は、1次運動野付近に集中していた。これに対し、チャンクや系列全体の階層の高い運動表現は、1次運動野以外の脳領域に空間的に重なって表現されていることが分かった。従来の説では、表現の階層が異なれば対応する脳部位も異なるとされていたが、今回の実験結果では、機能的階層性と解剖学的階層性は必ずしも対応していなかった。つまり、大脳皮質領域の運動前野や頭頂連合野では、異なる階層の運動が同時に表現されていることが分かった。
これらの研究結果は、身体がまひした患者の意図を読み取り、ロボットなどで運動を再構成するためのBMI技術開発において、効率的に運動情報の信号を得るための脳部位の同定、より効果的な運動推定手法の開発などへの応用が期待される。
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