船はどうやって自動運航するのか、クルマから使える技術も:自動運転技術(2/4 ページ)
東京海洋大学が、2019年9月4日と5日に東京都内で水陸連携マルチモーダルMaaS(Mobility-as-a-Service、自動車などの移動手段をサービスとして利用すること)の実証実験を実施。この記事では実証実験と討論会における自動運航に関する内容について主に解説する。
自動運航の3つのフェーズとは
フェーズIでは、船に搭載した各種センサー(レーダーや光学カメラ、AIS(※)、GPS、速度計、機関回転数計、舵角計など)をネットワークで接続し、取得した外部情報、航法情報をネットワーク上で利用できるシステムの実装に加えて、収集したデータを解析して最適な航路を提案する機能や機関に異常が発生しているのかを判断して通知する機能の実装を求めている。
(※)Automatic Identification System、日本では自動船舶識別装置と呼ぶことが多い
フェーズIIでは、データ解析をフェーズIより高度に実施できるだけでなく、AI(人工知能)によって、取るべき行動を具体的に提案できることが求められる。加えて、船員の判断に必要な情報を視覚的に掲示できることや、陸上からの遠隔操船が可能であることも求めている。ただし、システムが行うのはあくまでも「提案」「情報表示」であったり、遠隔操船より船上操船が優先されたりと、全ての運航場面において最終意思決定は船員が下すことになる。
その先のフェーズIIIでは、離着桟が自動でできるだけでなく、時化た海でも適切に機能することが求められる他、運航に関して自律的に判断できる場面を増やして最終意思決定者が船員でない領域が存在することを目指す。
フェーズIを満たす自動運航船はフィンランドのフェリー会社や日本の造船会社によって既に実用化している。また、2025年に実現を目指す自動運航船ではフェーズIIに準拠する予定だという。フェーズIは船に搭載している各種センサーや計器をIoT(モノのインターネット)の活用で船員が判断材料として利用しやすいものにし、フェーズIIではAIによる行動提案や遠隔操船など陸上のサポートなど支援を受けられるものの、最終意思決定者として船員は上船する「有人自律船」を目指す。フェーズIIIでは、AIによる自律判断が可能になる場面を増やすことで、配乗船員の削減などを可能にするとしている。
ただし、その場合、現行の船舶運航に関する法律は大幅に見直す必要もあると田村氏は述べている。なお、現状では自動航行中であることを認識できる形象物や国際信号旗、航海灯は規定していない。
また、このような自動運航船の開発を進めることは、国内海運に従事する内航船の進化にも貢献する。IoTの導入によるデータの蓄積と活用では、高度な運航管理や運航データの船舶検査活用が可能になり、陸上からの遠隔操船技術は操船サポートの他に機関の状態監視や保守管理の助言によって船員の負荷の削減にもつながる。操船や自動離着桟の自動化も船員負荷の削減と事故発生のリスクを抑えてくれる。
ここまで述べてきた従来型船舶の段階的な自動運航化とは別に、限定的な用途に用いる無人船(ドローン船)も自動運航船の進化の方向としてある。無人船は海洋調査といった限定的な分野(例えば海洋調査のように長期間一定パターンの航路を長期間航行する用途)や河川や運河による都市内物流といったこれまで船舶を使用していなかった分野で導入が一気に進む可能性があり、従来の海事業界だけでなく、異業種のベンチャーなどもビジネスモデルの模索を進めていると田村氏は説明する。日本財団がまとめたレポートでは、金融や情報通信、商業一般やその業種でも無人船の実現でそれぞれ数百億〜1000億円台の経済効果を得るとする試算もでている。
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