はやぶさ2が遥か彼方の小惑星に行って戻れる理由〜イオンエンジンの仕組み【前編】〜:次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(15)(4/4 ページ)
これまでのところ順調にミッションをこなしている小惑星探査機「はやぶさ2」。小惑星リュウグウまでの往路、そしてサンプルを持ち帰るための帰路で重要な役割を果たすのがイオンエンジンだ。このイオンエンジンの仕組みについて解説する。
しかし初号機のイオンエンジンでは幾つかの不具合も発生
小惑星イトカワでのトラブルを乗り越え、なんとか地球への帰路についた初号機。だが、トラブルはこれで終わりではなかった。
はやぶさには、4台のμ10(スラスターA〜D)が搭載されている。これらのうち、スラスターAは打ち上げ直後から不安定で、ほぼ使っていない。これまでは、残りのスラスターB〜Dを使って、運用を続けてきた。
これら3台が無事に使えれば、帰路の運用も問題無いはずだったが、まずスラスターBが停止。その半年後に、スラスターDも使えなくなってしまった。スラスターCだけでは、帰還するためのΔVが足りない。またしても、初号機は絶体絶命のピンチを迎えてしまった。
ここで問題となったのは、中和器の劣化だった。電子を放出するために、マイナスの電圧を加えているのだが、どんどん放出しにくくなり、電圧が上昇。ついに限界に達してしまったのだ。
ところが、この問題もプロジェクトチームは解決してしまう。高圧直流電源に仕込まれていたバイパスダイオード。これは高圧直流電源の故障に備えて後から追加したものだったが、これを使えば、異なるスラスターのイオン源と中和器をつないで、1台のスラスターとして運転すること(クロス運転)が可能だったのだ。まさに“裏技”である。
このバイパスダイオードは、もちろんはやぶさ2にも搭載されている(出番は無い方が望ましいだろうが)。西山氏に、その他に何か“隠し機能”は無いのか念のため聞いたところ、「もう無い」と笑って否定されたのだが、万が一のときには「こんなこともあろうかと」と、また驚くような方法で解決するような気がしないでも無い(笑)。
はやぶさ2のミッションは、今のところほぼ完璧ともいえるほど順調。イオンエンジンについても、特に大きな問題は起きておらず、スラスターは4台とも健在だ。小惑星リュウグウまでの往路運転について、西山氏は「まだ点数を付けるほど働いていないが、付けるとすると100点だろう」と、振り返る。
初号機のイオンエンジンで発生した問題を、はやぶさ2ではどう改良したのか。次回は、その点について詳しく見ていくことにしたい。
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