技術者も知っておきたい財務、会計のことば「のれん」:製造マネジメントニュース
PwC Japanグループは2019年8月8日、「M&Aにおける会計・財務報告の重要性:のれんの減損リスクを適切に理解するための会計上のポイントなど」をテーマに、メディアセミナーを開催。製造業で勢いづくM&Aを読み解くうえで理解しておきたい「のれん」について解説がなされた。
PwC Japanグループは2019年8月8日、「M&Aにおける会計・財務報告の重要性:のれんの減損リスクを適切に理解するための会計上のポイントなど」をテーマに、メディアセミナーを開催。製造業で勢いづくM&A(Mergers and Acquisitions:合併と買収)を読み解くうえで理解しておきたい「のれん」について解説がなされた。
M&Aではつきものである、のれんの会計処理。のれんは買収側企業が買収先企業に見込んでいる、ブランドや顧客基盤など潜在的な企業価値への対価とされる。一般的なM&Aでは買収先企業の時価純資産よりも買収対価が大きく、この差額がのれんとなる。のれんは買収後、連結ベースBS(賃借対照表)の資産に計上される。
買収先企業の時価純資産よりも安く買収した場合には「負ののれん」が発生する。負ののれんは買収したタイミングで買収側企業がPL(損益計算書)に利益として一括計上する。RIZAPグループは2017〜2018年度決算で負ののれんによる発生益を多く計上していたとされるが、不採算子会社の影響により新規M&Aを停止。2019年3月期の最終損益が193億円の赤字に転落したことに注目が集まった。
のれんは永久にBS上で資産に計上するわけではない。この会計処理は各国の会計基準で異なっており、日本基準ではのれんを最長20年で定期償却することを求めるとともに、兆候があるときには減損判定を行う。一方で、IFRS(国際財務報告基準)やUSGAAP(米国会計基準)ではのれんの定期償却を認めておらず、毎期実施する減損テストで必要性が認められた場合に減損する。日本基準と比較して、IFRSやUSGAAPではのれん減損が計上されるケースが多く、多額の損失が一気に表面化することがある。USGAAPを適用する東芝は、2016年度業績で米国原子力事業ののれん減損で多額の損失を計上していた。
PwCあらた有限責任監査法人 パートナーの永野隆一氏は、企業買収時ののれん会計処理に留意するように指摘する。「買収先企業のBSの総資産の中に含み益がある状態、総資産の時価評価差額が大きければ多いほど、のれんは小さくなる。負債が大きくなればなるほど純資産は小さくなるので、のれんは大きくなる。無形資産の場合は大きくなればなるほど、のれんは小さくなる。買収するときの会計処理を厳密に行うことで、のれんの金額が影響を受けるためだ」(永野氏)。
買収先企業の株式を一部取得し子会社とした場合ののれん算定についても、会計基準によって方法が異なる。日本会計基準では、買収先企業の時価純資産に買収側企業の持分比率を掛けた金額と買収対価の差額をのれんとする「購入のれん」の考え方をとる。一方で、USGAAPは少数株主持分も含めてのれんとする「全部のれん」となる。IFRSは購入のれん、全部のれんのどちらも認めているが、財務諸表への注記を求めている。永野氏は「のれんの金額だけを見て、金額が大きいから問題だとは言いにくい。会計処理によって金額の大小が異なってくるので、財務諸表を見てどのような算定をしているのかを見なければならない。買収側企業はディスクロージャーとして、財務諸表に注記することが求められる」と述べる。
また、のれん減損について、永野氏は「のれんの価値が下がっているか評価することには、主観が入るリスクがある。経営者が本当は価値の落ちているのれんを損失計上しないのでは、という疑問もあるだろう。そこでのれん減損の評価単位をどうするのか」と問題提起する。会計基準上では「会社の内部管理上の単位に応じて評価すると規定している」とし、買収先企業単体での評価や他の子会社も含めた事業セグメントでの評価も許容しているとする。
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