中小製造業における経営者の引退で生まれる問題:2019年版中小企業白書を読み解く(3)(3/7 ページ)
中小企業の現状を示す「2019年版中小企業白書」が公開された。本連載では、中小製造業に求められる労働生産性向上をテーマとし、中小製造業の人手不足や世代交代などの現状、デジタル化やグローバル化などの外的状況などを踏まえて、4回に分けて紹介している。第3回は、中小企業における世代交代の実態について紹介する。
経営者交代と企業のパフォーマンスの関係
事業承継を契機として企業の業績が改善する可能性なども指摘されているが、以下では、「傾向スコアマッチング」と「差の差分析」の手法を利用して、事業承継が業績に与える影響について分析する。ここでは、CRD協会の法人データベース(以下、CRDデータ)を利用する。
図8は、事業承継した企業と事業承継していない企業の売上高成長率を比較したものである。これを見るに、事業承継した企業は承継の翌年から5年後までの間、事業承継していない企業と比較して成長率が高く、統計的に有意な差が確認できる。また、事業承継年から年がたつにつれて差が拡大しているため、事業承継後に売上高が成長するケースが多いと考えられる。
また、承継後の新経営者の年代における効果を比較すると、事業を引き継いだ経営者が30代以下や40代の場合、事業承継の翌年から5年後までの間、事業承継していない企業と比較して売上高成長率を押し上げる効果が顕著である(図9)。しかし、50代への事業承継になると、事業承継から2年後、3年後を除き、有意な効果が確認できなかった。
続いて総資産成長率について比較してみると、2010年度に事業承継した企業は承継後全ての年で、2009年度と2011年度に事業承継した企業も5年中3年で、事業承継していない企業の総資産成長率を有意に上回っており、総資産成長率についても事業承継後によりおおむね上昇すると考えられる(図10)。
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