中小製造業における経営者の引退で生まれる問題:2019年版中小企業白書を読み解く(3)(2/7 ページ)
中小企業の現状を示す「2019年版中小企業白書」が公開された。本連載では、中小製造業に求められる労働生産性向上をテーマとし、中小製造業の人手不足や世代交代などの現状、デジタル化やグローバル化などの外的状況などを踏まえて、4回に分けて紹介している。第3回は、中小企業における世代交代の実態について紹介する。
経営者引退に伴う経営資源の引き継ぎに関する概念
考察に入る前に、まず経営者の「参入」と「引退」の概観を示し、その上で特に経営者の引退(事業承継、廃業)の概念を整理したい。はじめに、経営者の参入と引退の全体像と、それを分析する背景を図4に示す。経営者の参入には、自ら事業を開始する「起業」、他者から事業を引き継ぐ「事業承継」がある。他方、経営者の引退には、他者へ事業を引き継ぐ「事業承継」、事業を停止する「廃業」がある。近年、「事業承継」が注目されているが、「事業承継」は、経営者の参入と引退が同時に行われていることを指す。
経営者の引退に伴う経営資源引き継ぎの概念について、図5で整理する。経営者引退は、事業が継続されるか否かによって「事業承継」と「廃業」に分けられる。また、事業の継続状況とは別に、事業で使用されていた経営資源がどうなったかという観点から捉えた「経営資源の引き継ぎ」がある。
経営者の引退に伴う経営資源引き継ぎの概念を踏まえると、上に示した図5中のI〜IVは、次世代に経営資源を引き継いでいる。先に述べた通り、経営資源の散逸を防ぐためにはこの取り組みが重要である。経営資源の引き継ぎの実態と課題を把握するため、ここからは特に引退する経営者に着目して「事業承継」にスポットを当てていく。
事業承継の課題
まずは、事業承継における課題を掘り下げるべく、事業承継の形態別に「事業承継した経営者」が感じた課題について分析する。図6は、引退した経営者と事業を引き継いだ後継者との関係を示している。結果を見ると親族内承継が過半を占めており、その大半は子ども(男性)への承継である。他方、親族外の承継も3割を超え、事業承継の有力な選択肢となっている。
次に、後継者を決定し、事業を引き継ぐ上で苦労した点を見てみよう。役員や従業員への承継では「後継者の了承を得ること」、社外への承継では「取引先との関係維持」「後継者を探すこと」に苦労したとする回答が多い(図7)。このことから、事業承継の形態によって事業を引き継ぐ上での苦労が異なることが分かる。また全体を見ると、「取引先との関係維持」や「後継者に経営状況を詳細に伝えること」など、承継前に後継者に引き継ぐための取り組みや教育が必要な事項も比較的高い割合になっている。
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