シミュレーションには高品質な材料情報が不可欠、ANSYS+Grantaがもたらす効果:CAEニュース
ANSYSの日本法人であるアンシス・ジャパンは、材料情報技術を有するGranta Design(Granta)を買収した背景と、ANSYS製品として今後どのような展開を図っていくのかを説明した。
ANSYSの日本法人であるアンシス・ジャパンは2019年7月25日、材料情報技術を有するGranta Design(以下、Granta)を買収した背景と、ANSYS製品として今後どのような展開を図っていくのかを説明した。
Grantaは、英国ケンブリッジ大学の教育プロジェクトを基に、2人の教授によって1994年に設立された。豊富な材料情報を有し、製品開発などにおける材料選定や材料情報の管理を支援するツールを提供し、デジタル変革が進む中で見過ごされ、遅れていた材料領域におけるデジタルソリューションとしての地位を確立してきた。
実際、形状を作り、性能や機能を固め、製造するというモノづくりのプロセスを見てみると、CAD、CAE、CAMといったデジタルツールが活用されているが、材料の領域に関してはデジタル化されているケースは少なく、紙ベースに近い運用、管理が行われてきた。「Grantaのミッションは、企業のデジタル変革を背景に、材料の領域においてもデジタル化を加速させ、効率的に材料情報を活用できるようにすることだ」とANSYS Product Operations部門 シニアディレクターのAnthony Dawson氏は語る。
ANSYS Product Operations部門 シニアディレクターのAnthony Dawson氏。なお、Grantaの買収により新設されたANSYS Material Businessユニットのジェネラルマネージャーも務める
ANSYSがGrantaを買収した理由
では、なぜANSYSがGrantaを買収したのか。その経緯について、Dawson氏は次のように説明する。「ANSYSは、あらゆるプロセスにおいてシミュレーション技術が広範に活用される『Pervasive Simulation』という戦略を掲げているが、実はプロダクトライフサイクルの全てに関わってくるのが材料であり、高精度なシミュレーションを実現する上で非常に重要な情報だと考えている。ANSYSのユーザーにとって、Grantaの潤沢な材料情報は、コスト削減や効率化につながる有用なものであると確信している」(Dawson氏)。
さらに、ANSYSとしてはGrantaをアジア(日本を含む)に展開したいという思いもあるという。「既に、欧米を中心に多くの企業でGrantaが提供するツールが活用されており、材料情報の管理を実現し、デジタル化、効率化を図り、最終的にコスト削減につなげている。今回の買収を機に、これまであまり販売できていなかったアジアへの展開を強化していきたい」とDawson氏は展望を述べる。
3つの「ANSYS GRANTA」製品
Grantaの製品は、既にANSYSブランドとして3つの製品が展開されている。1つは「ANSYS GRANTA Materials Data for Simulation」だ。ANSYSのシミュレーションツールに組み込まれる形で利用可能なシミュレーション向け材料データベース製品。こちらはANSYSの買収後に開発したもので、Grantaの材料特性データのライブラリからシミュレーションで利用可能な600種類以上の材料情報が含まれ、使い勝手が良く、シミュレーション時に素早く材料選定が行えるのが特長である。
2つ目の製品は「ANSYS GRANTA CES Selector」だ。これは材料選択と材料特性をグラフィカルに分析できるソフトウェアで、性能、コスト、環境などを考慮し、最適な材料候補を素早く特定できる。従来、最適な材料を特定するためには膨大な調査時間を要していたが、ANSYS GRANTA CES Selectorを活用することで、初期段階から最適な材料を絞り込んで、製品開発などに生かすことができる。「これはGrantaのオリジナル製品で、膨大な材料情報のライブラリの中からどの材料が最適なものかを教えてくれる。意思決定の迅速化に役立つだけでなく、別の安価な材料への置き換えを検討する際などにも有効活用できる。あらゆる産業で効果を発揮する業界標準のソフトウェアだ」とDawson氏は説明する。
そして、3つ目が「ANSYS GRANTA MI(Material Intelligence)」である。企業内における材料関連のあらゆるデータを一元管理し、関係者間でのデータ共有やコミュニケーションを実現するインタフェースが用意されたソリューションだ。「ANSYS GRANTA MIは、3つの製品の中で最も最先端の材料情報管理用プラットフォームだ。デジタル化と一元管理によって、コスト削減およびヒューマンエラーの低減などが図れる。既に組織内で材料情報を扱っている企業に有効だ」(Dawson氏)。
現在、日本の大手自動車メーカー(OEM)がANSYS GRANTA MIを試験導入し、評価を始めているという。また、標準のANSYS GRANTA MIはかなり大規模なシステムであるため、将来的には中小企業でも気軽に導入できるようなANSYS GRANTA MIの“スモールスタートバージョン”の提供準備も進めているという(2020年内に提供予定)。
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