真にデジタル化しなければ、モビリティは生き残れない!:和田憲一郎の電動化新時代!(34)(3/4 ページ)
最近、筆者が若干勘違いしていたことがあった。デジタル化とビッグデータ化である。どちらかといえば、アナログに対するデジタルのように、ビッグデータは単にデータを集積したものという理解だった。しかし、最近、幾つかの訪問や体験を通して、デジタル化やビッグデータ化がこれまでとは全く違った局面を迎えているのではないかと考えた。その結果、移動手段であるモビリティは将来デジタル化しないと生き残れないと思ったのである。なぜこのような考えに至ったのか、今回述べてみたい。
北京におけるイノベーション
今回はもう1カ所、北京も訪れた。意外に知られていないが、北京郊外の公道で自動運転テストを数多く実施しているエリアがあるとのこと。この取り組みを主催する北京智能車聯産業創新中心の担当者から話を聞く機会があった。北京智能車聯産業創新中心は、2016年に中央政府や北京市の指導のもと、自動車メーカー、IT、交通、通信などの企業が資金を出して設立された。担当者によれば、その役割は主に以下の通りだという。
- 自動運転車普及のためには、クルマのみならず、道路整備や駐車方法、クルマの利用方法など、多面的なことを考えていかなければならない。シミュレーションだけでなく、クローズド型の自動運転車試験場や、一般公道を使って試験などを行っている。2018年時点で、公道44道路、総延長123kmで自動運転テストを実施した
- クローズド型の自動運転車試験場は2カ所あり、総面積は56haに及ぶ。ここでは、歩行者の飛び出し、バイクの侵入、事故車への対応など、実際の道路を模擬して試験を実施している
- 自動運転車を普及させるためには、法律、関連法規、基準などを見直していかなければならない。産学連携により、どのように改訂していけばよいかを検討している
- AI活用による都市管理システム、都市交通システム、ライフスタイルの変化なども想定できるため、IT、交通、通信などの企業と連携して進めている
この話を聞いて納得がいった。というのは、北京中心部では全く自動運転車を見かけることがなかったが、北京郊外のあるエリアに来ると、頻繁に自動運転車が公道を走る姿を見るようになったのだ。バイドゥのアポロプロジェクトも、北京の自動運転テストメンバーに入っている。アポロプロジェクトは中国自動車メーカーのみならず、日欧米の自動車メーカー、マイクロソフト、インテル、エヌビディアなどの有力IT企業含め、総勢130を超える企業や研究機関が参加している。逆に言えば、世界各国の企業が中国の試験場を舞台として活用し、そこで得た知見や経験を各地に展開する構図となっているともいえる。
北京の南西には雄安新区がある。ここは自動運転車のみを走行させる街だが、どこか実力を養う場所は必要だろう。北京における公道試験と雄安新区の関係ははっきりしなかったが、クルマのみならず道路整備、駐車方法、都市管理システム、都市交通システムまでも考えると、北京でかなり煮詰めて雄安新区に移設するのではないかと思われる。
北京智能車聯産業創新中心のクローズド型自動運転試験場の1つを訪問すると、そこでは約40haの敷地に多くの車線や信号が設定され、まるで街を再現したかのようだった。また高速道路へ侵入するランプや降り口なども設定され、まさに現実と同じようなレイアウトで設定されていた。おそらく、このクローズド型の自動運転試験場で一定の安全基準を満たした自動運転車が、公道試験を許されているのではないか。まさに、自動運転車用の運転免許試験場だと考えられる。
いずれにしても、頭で考えるだけでなく、クローズド型自動運転試験、公道による実証試験、そして都市管理システムや都市交通システムまでも実施して知見や経験を蓄積し、本当に必要な法規や基準などを改訂していこうとする意気込みに驚かされた。
中国だからできるとの指摘もあるかもしれないが、「デジタル・シフト戦略」の著者ジョージ・ウェスターマン氏は、世界中の多くの企業を調査した結果、ほとんどの企業でデジタル化やビッグデータの活用が遅れているものの、一部の企業は既にビッグデータを取り込んで活用し、「デジタルマスター」と呼ぶべき存在になっていると述べている。デジタルマスターは各国に存在し、巨大データセンターを建設中のテンセントやファーウェイ、上述の北京智能車聯産業創新中心などもその部類だろう。
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