日産がクルマとソフトの両面を知る技術者育成を強化、研修施設を公開:車載ソフトウェア(2/2 ページ)
日産自動車は2019年7月3日、車載ソフトウェア開発に関する社内研修施設「日産ソフトウェアトレーニングセンター」(神奈川県厚木市)を報道陣向けに公開した。日産は自動車工学に精通したソフトウェア開発人材の丁寧な育成で、競合他社との差別化を図る狙いだ。
車載ソフトウェア開発を一気通貫で、ADAS開発も実習
トレーニングは3段階に分かれており、合計480時間分の講義と実習で構成されている。各段階では理解度確認試験が用意され、試験に合格することで次のステップに進むことができる。全ステップを受講後、帰任1カ月で自業務への学習成果適用を提案する「成果発表」を行うことでトレーニングの修了資格が認定される。
第1段階となる「ステップ0:ソフトウェア基礎」では、ソフトウェアが動作する初歩的な原理から学ぶ。その後、クルマ独自のハードウェアである車載マイコンの基本やC言語を用いたプログラミング、車載ソフトウェア開発の基礎などを学習する座学が14講座、12日間にわたって行われる。
第2段階となる「ステップ1:モデルベース開発」では、量産車開発で注目が集まるモデルベース開発(MBD)やラピッドプロトタイピングなどを10講座と実践課題で25日間にわたり学ぶ。講義では車両の運動モデルから制御モデルの組み立て方、制御理論、各種ツールの利用法などを習得する。実践課題ではADASの一部機能について、与えられた仕様書に沿った制御仕様の検討とプロトタイプモデル開発を行い、ラジコンカーで実走テストを行う。
第3段階となる「ステップ2:量産ソフトウェア開発」は16講座と実践課題で構成され、量産段階で求められるモデルの作成法や実ECUへの実装と評価技法などを学ぶ。ステップ1とステップ2では、日産社内で規定されている「アライアンスモデルガイドライン」への適合確認やモデル再利用可能性の改善といった“量産段階での実践力”を重視している点でも学習内容が異なる。実践課題では、一部機能を実装したADASソフトウェア開発をモデル作成からHIL(Hardware In the Loop)による実ECUテストまで行い、ソフトウェア開発プロセスの全工程を経験する。
ADAS先行技術開発部署でモデリングや評価に携わる同社技術者は、トレーニングを修了したことで「V字プロセスを一気通貫で経験できたことにより、他の部署がどのような業務を担っているかが具体的に理解できるようになった。日産のソフトウェア開発全体の品質が向上するよう、業務を進める視点を持つことができた」と語る。
また、現在トレーニングに参加する同社技術者は「これまで同じ部署の先輩から開発ツールの使い方を学び業務に従事してきたが、新しい作業を行う場合には手探りでツールを使ってきた」とし、「このトレーニングで開発ツールの利用法を正確に理解できたことが今後の業務に生かせる」と述べた。
豊増氏は「OEM(自動車メーカー)は実車試験をなるべく減らしたいと考えており、デジタルの開発フェーズでいかに性能確認を行うか検討している。日産ソフトウェアトレーニングセンターで優秀なソフトウェア人材を育成することで、デジタルフェーズにおける開発の質が上がり、開発期間の短縮などにもつながるだろう」と述べる。
同センターは2020年末までに累計300人の技術者を輩出する方針だ。2022年度には、同センターでのトレーニング受講経験者が日産のソフトウェア開発人材で約10分の1となる累計500人に達すると見込んでいる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- AUTOSARを「使いこなす」ということを考えてみる(前編)
車載ソフトウェアを扱う上で既に必要不可欠なものとなっているAUTOSAR。このAUTOSARを「使いこなす」にはどうすればいいのだろうか。技術面の解決に取り組むだけではなく、AUTOSARを扱う際に陥りがちな思考から解き放たれることで、AUTOSARともっとうまく付き合っていくことができるかもしれない。 - 京子がクルマつくってるらしいよ(@_@;)
技術者であれば一度は聞いたことがあるかもしれない「モデルベース開発」という言葉。本連載では、主人公である電装部品メーカーの若手女性技術者・小野京子が、“燃費世界一”を目指すクルマの開発に関わる中で、モデルベース開発を一から学びつつ、技術者としても成長していく姿を描きます。京子の奮戦に乞うご期待! - モデルベース開発は単なる手法でなくモノの考え方、マツダ流の取り組みとは
マツダは2021年に向けて、エンジンや電動パワートレイン、プラットフォーム、デザインなど、さまざまな分野の取り組みを同時並行で市場投入する。「今後の研究開発計画を、今の人数でなんとかこなせるのはモデルベース開発を取り入れているから。単なる開発手法ではなく、ものの考え方だ」と同社 常務執行役員 シニア技術開発フェローの人見光夫氏は説明する。 - 大規模化する車載ソフト、パナソニックは品質とセキュリティを確保できるのか
日本シノプシスが主催するユーザーイベント「SNUG Japan 2018」に、パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社 インフォテインメントシステム事業部 主任技師の古田健裕氏が登壇。「パナソニック オートモーティブ事業部門におけるソースコード品質向上の取り組み」と題して講演を行った。 - 三菱自動車が都内に車載ソフト開発拠点「異業界から技術者を幅広く募集」
三菱自動車は、次世代のクルマづくりに必要な車載ソフトウェアの開発力強化に向けて、新たな開発拠点となる「三菱自動車ソフトウェア イノベーション センター(仮)」を、2019年度内に東京都内に開設すると発表した。 - アイシングループで車載ソフト会社を統合、従業員数は合わせて700人に
アイシン精機とアイシン・エィ・ダブリュは2019年4月23日、グループ内の車載ソフトウェア開発子会社の経営統合に向けて基本合意したと発表した。対象となるのは、アイシン・コムクルーズとエィ・ダブリュ・ソフトウェアの2社。2019年10月の経営統合を目指す。