深刻化する中小製造業の人手不足――労働力人口の減少と大企業志向の高まり:2019年版中小企業白書を読み解く(1)(6/6 ページ)
中小企業の現状を示す「2019年版中小企業白書」が公開された。本連載では、中小製造業に求められる労働生産性向上をテーマとし、中小製造業の人手不足や世代交代などの現状、デジタル化やグローバル化などの外的状況などを踏まえて、同白書の内容を4回に分けて紹介する。第1回は、中小企業の人手不足の現状を明らかにするとともに、人手不足の状況下での雇用の在り方について解説する。
人手不足を補う、新たな雇用の担い手
ここまで、日本経済の緩やかな回復基調を背景に有効求人倍率や新規求人倍率が高水準で推移しているものの、少子高齢化を背景とした労働力人口の減少、大卒予定者や転職者の大企業志向の高まりなどにより、人手不足感が高まっている状況が分かった。
ただ、このような状況にあっても採用対象者を工夫することで人手不足に対応している企業も存在する。例えば、これまで社会進出の進んでいなかった女性などの雇用を増やすことが挙げられる。図17を見ると、直近10年間で、特に非正規の雇用形態において、女性の雇用者数が増加していることが分かる。
また、これまで社会進出の進んでいなかった層として、60歳以上のシニアが挙げられるが、このシニア層においても、女性と同様に非正規雇用での雇用者数が増加している(図18)。ライフスタイルに合わせて柔軟に働いたり、無理のない程度に働いたりすることで社会進出を進めていることが考えられる。
先ほど、図14で新規大卒予定者について、規模の小さな企業への希望者数が年々減りつつあることを確認したが、非正規という形で女性やシニアの労働者数が増えている通り、採用の方法は新卒の正規雇用に限られない。人手不足への対応策の最後に、常用労働者の中途採用事業所割合の推移を確認すると、直近10年間の中小企業の中途採用事業所割合は増加傾向にあり、人手の足りない事業所においては中途採用という形態で人を雇うことも対策の1つとなっている可能性が考えられる(図19)。
今回は、さまざまな角度から中小企業における人手不足の現状を明らかにするとともに、新たな雇用の担い手について紹介した。
しかしながら、人手不足の根本的な原因である人口減少が進むことは間違いなく、今後は人口減少を前提としたビジネスモデルを構築していく必要がある。日本のさらなる経済成長という意味でも、全企業数のうち99.7%を占める中小企業の労働生産性向上が求められている。
こうした中で、新たな販路拡大の可能性や不足する経営資源の補完や経営の合理化を後押しする「デジタル化」や、新興国を中心とした海外の需要を獲得して成長の機会を得る「グローバル化」は大きな追い風になると考えられる。人口減少という避けられない課題に直面している今、中小企業に求められるこれらの自己変革については、次回で詳しく掘り下げたい。
筆者紹介
長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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