検索
特集

シーサイドラインの事故原因は「自動運転」ではないモビリティサービス(4/4 ページ)

2019年6月1日に発生した新交通システム逆走衝突事故。原因は運行指令システムと制御システム間の通信不良であり、これは有人運転でも起こる。そこで、鉄道の自動運転のしくみと、現時点で判明している範囲で事故の原因、それを踏まえた上での対策について考察する。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

列車にクルマの自動運転技術を応用できる

 シーサイドラインの場合、運転士がいたら逆走にすぐ気付き、非常停止スイッチを押せた。監視カメラで異常を認知した監視員も非常停止を指示できたはずだ。しかし、逆走に気づいたとしても、気付くタイミングは遅いだろう。実際に乗り、加速度を体感している場合と、モニター画面の監視では差があって当然だ。そもそも、最初に横浜シーサイドラインが会見したように「想定外」の事故だった。想定できない事象を見越した監視は難しい。

 制御機器の誤作動による暴走事故は過去にもあった。1993年に大阪市のニュートラムで暴走事故が起きた。負傷者は200人以上という惨事だった。ATOから車両へのブレーキ指示が伝達されず、常用ブレーキがかからなかった。ATCが非常ブレーキを作動させたけれども、間に合わなかった。ニュートラムは無人運転だ。こうした事故を防ぐために何が必要か。終端部だけ有人運転とするか、しかし、無人運転が前提の路線をフル稼働させるだけの運転士はいない。

シーサイドラインの終端部(クリックして拡大)

 2009年の湘南モノレール暴走事故は、VVVFインバータという、モーターを制御する装置のノイズによって誤動作したためとされた。湘南モノレールは有人運転だ。それでも暴走を防げなかった。

 筆者は、そこにクルマの自動運転技術を取り入れたらいいと思う。鉄道の自動運転技術は「閉塞」を前提としている。一方、クルマの自動運転技術は、センサーによる周辺監視とAI(人工知能)に支えられている。道路には閉塞という概念がなく、鉄道に比べて無秩序である。それを克服するために、センサーで周囲の状況を把握し、AIが状況を判断する仕組みを作った。

 筆者も2018年末に高度運転支援システム(ADAS)を搭載したクルマを買った。クルマの周囲の障害物を検知して警告、障害物にさらに近づくとブレーキがかかる。高速道路ではレーンキープするようステアリングが補正する。オートクルーズで速度設定すると、前車の減速や無理な割り込みがあって車間距離が短くなると、こちらも自動的に減速する。

 最新の鉄道車両は踏切やプラットホームの事故を記録するためドライブレコーダーを搭載している。そのカメラを高度にするとクルマのように画像認識による衝突安全装置を作れるのではないか。

 この仕組みは路面電車で特に有効だ。路面電車は道路交通に従って運行されて、閉塞区間の仕組みはない。だから路面電車はバスのように続行運転をするし、交差点では複数の電車が並ぶ。従って追突、人や車との接触など、バスと同様の危険がある。しかも路面電車はレール上を走るためハンドル操作でも回避できない。

 路面電車は安全性を担保するために最高速度が厳しく制限されている。道路の制限速度と合わせる他、最高速度は時速40kmだ。道路交通法では一般道の最高速度は時速60kmである。そのような道でも路面電車は時速40kmである。混合交通において、流れを妨げる要因になっている。もし路面電車にクルマのような衝突安全システムが搭載されたら、速度引き上げの検討材料になるかもしれない。

 鉄道の安全は、閉塞と専用軌道によって、周囲の安全が担保された上で構築されている。クルマの安全は、センサーが取得した映像とAIによる状況観察によって行われる。鉄道と道路の衝突安全に対する考え方は根本的に異なる。だからこそ、両方の技術を組み合わせたら、鉄道はもっと安全な乗りものになるだろう。踏切がある路線でも自動運転が可能になるかもしれない。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る