48VマイルドHVにガルバニック絶縁が必要な理由:電源システム解説(2/2 ページ)
48Vバッテリー電源を使用する自動車では、ガルバニック絶縁を考慮することが非常に重要です。絶縁は、グラウンドノイズに対する耐性に活用されるとともに、12Vシステムが接続する48Vシステムでグラウンドリフトや障害が発生した場合に12Vシステムを保護します。統合型の絶縁CANトランシーバーは、プッシュプルをベースとした絶縁DC/DC電源と組み合わせることで、48Vシステムを絶縁するためのコンパクトで効率が良く、堅牢で低ノイズの技術を提供します。
CANインタフェースを用いた48Vシステムの絶縁
ガルバニック絶縁を施すには幾つかの方法があり、絶縁境界はシステム内部のさまざまな場所に設置されます。図2は、CANインタフェースで絶縁する場合によく利用される方法です。CANインタフェースでの絶縁には、システムのその他の部分で絶縁するのに比べて、使用する絶縁チャネルが最小限で済むという利点があります。つまり、絶縁チャネルが2つで済み、コストと基板面積が削減されます。
絶縁DC-DCコンバーターは、絶縁電源VISOを生成し、これにより48Vシステムの部品に電源を供給します。48Vバッテリーが完全に放電したとしても、VISOのおかげで、デジタルアイソレーターと48Vシステムの重要な部品の動作に必要な電力が保証されます。VISOは、GND_48Vが切断された場合に48V側を安全な状態にしておくためにも使われます。
ここで統合型の絶縁CANトランシーバーおよび絶縁DC-DC電源コントローラーを使用すると、48Vシステムの絶縁型CANインタフェースを簡素化できます。図3は、48Vスタータージェネレーターの例です。他にも、DC-DCコンバーター、バッテリー管理システム、ヒーター、エアコンプレッサーなどの48Vシステムに同様の絶縁アーキテクチャを使用することができます。
シングルチップに統合された絶縁CANトランシーバーは、高電圧ガルバニック絶縁を高性能CANトランシーバーと統合し、基板面積を削減するとともにタイミングパラメータを改善します。CANの機能という観点では、CAN FD(Flexible Data Rate)を利用すれば、より低いループ遅延とスキューにより高速データ通信を実現できます。絶縁することで、伝導および放射干渉への耐性が得られます。冗長絶縁または強化絶縁は、障害状態時に十分に余裕を持った保護を提供します。
同じく図3に示すように、プッシュプルトランスドライバを外部のトランスとともに使用し、10〜15Vの範囲の絶縁電力VISO_HVを生成し、MOSFETゲートドライバに電源供給できます。また、3.3〜5Vの範囲の低電圧電力VISOをマイコンと絶縁CANデバイスのデジタル側に電源供給できます。
プッシュプルトポロジーは、交互のクロック位相でオンになるローサイドスイッチを2つ使用し、センタータップ付き絶縁トランスを介して継続的に電力を伝送します。このトポロジーはフィードフォワード制御を利用し、出力電圧は純粋に変圧比で制御されます。継続的に電力伝達を行うことで他のトポロジーに比べてピーク電流がかなり小さくなり、結果としてエミッションが抑制され、効率が向上します。対称形のドライブもトランスの飽和を防止することになり、トランスのサイズをコンパクトにできます。
12V側では、非絶縁DC-DCコンバーターまたは降圧回路が5V電源を生成してCANトランシーバーに電源供給し、これはプッシュプル絶縁DC-DCコンバーターの入力電圧にもなります。事前に降圧回路を使用することで、負荷変動に起因する12Vバッテリー電源の変動の影響を受けにくいシステムになります。また、低い入力電圧(12Vに対して5V)で動作することで、トランスが小型になります。
まとめ
48Vバッテリー電源を使用する自動車では、ガルバニック絶縁の採用を検討することが非常に重要です。絶縁は、グラウンドノイズに対する耐性に活用されるとともに、12Vシステムが接続する48Vシステムでグラウンドリフトや障害が発生した場合に12Vシステムを保護します。HEVで48V電力を使用するシステムの例として、スタータージェネレーター、電動ターボチャージャー、電動ポンプ、エアコン、ヒーター、電動サスペンション、運転支援機能などがあります。統合型の絶縁CANトランシーバーは、プッシュプルをベースとした絶縁DC-DC電源コントローラーと組み合わせることで、48Vシステムを絶縁するためのコンパクトで効率が良く、堅牢で低ノイズの技術を提供します。
著者紹介
Anant Kamath
テキサス・インスツルメンツ
アイソレーション・プロダクト&インターフェイス部門
システム・エンジニア
関連記事
- 高級車から広がる48Vシステム、ディーゼルエンジンに代わる環境技術に
聞いたことはあるけれど、正確に知っているかといわれると自信がない……。クルマに関する“いまさら聞けないあの話”を識者が解説します。第4回は、ディーゼルエンジンに対する逆風が強まる中、製品化が相次いでいる「48Vシステム」です。48Vシステムの特徴とは一体何でしょうか。 - 48VシステムをEVやPHEVにも展開、車載充電器にはGaN採用
ヴァレオジャパンは、「人とくるまのテクノロジー展2019 横浜」(2019年5月22〜24日、パシフィコ横浜)において、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)向けの48Vシステムを提案した。低コストな電動車の実用化に貢献する。 - ベンツ初の48VマイルドHV、20年ぶりの直6と組み合わせて「Sクラス」に採用
メルセデス・ベンツ日本は、電源電圧が48Vのマイルドハイブリッドシステムを搭載したフラグシップセダン「S450」を発表した。メルセデス・ベンツブランドが48Vマイルドハイブリッドシステムを採用するのは初となる。 - CANプロトコルを理解するための基礎知識
現段階においてCANは車載ネットワークの事実上の標準といえる。だからこそ、その特長と基礎をしっかり押えておきたい - 次世代の車載ネットワーク「CAN FD」とは
セキュリティ対応や自動運転などの車両の高機能化に伴い、より高速な車載ネットワークが求められている。本稿では次世代の車載ネットワークの1つとして考えられているCAN FD導入の背景やプロトコルの概要ついて紹介する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.