「MATLAB/Simulink」はなぜAI関連機能を拡充するのか、MBSEも視野に:組み込み開発 インタビュー(2/2 ページ)
自動車をはじめとする制御システムの開発に携わる技術者にとって、MathWorksのモデルベース開発環境「MATLAB/Simulink」は、なくてはならないツールの1つになっている。創業から35周年を迎える同社が、近年最も力を入れているのがAI関連の機能拡充だ。
AIの開発プロジェクトが失敗する4つの原因
AIの採用に向けて各産業分野でさまざまな取り組みが進んでいるが、必ずしも全てが成功しているわけではない。ロブナー氏は「これらの失敗の原因は大まかに4つに分けられる」と指摘する。
1つ目はデータサイエンティストが不足していることだ。「日本政府はAI人材を年間25万人育成する方針と聞いているが、少なくとも今は明らかに不足している」(ロブナー氏)。2つ目は、AIの開発ツールに問題があることだ。AIだけ開発できるのではなく、他のシステムとも連携できる必要がある。3つ目はデータそのもの問題だ。機械学習のためのデータが正しくない、不足している、どこに保管するのかなど多数ある。そして4つ目は、ビジネス的な観点から見た場合の課題だ。「AIで物事を解決しようとしても膨大な作業が必要で、ROI(投資収益率)的にNGになってしまうことが多い」(同氏)。
MathWorksは、こういった失敗が起こらないように、AIを含めた全ての開発ワークフローをカバーできるよう、MATLAB/Simulinkの開発を進めてきた。ロブナー氏は「データの準備からAIのモデリング、システム設計、そして実装に至るまでを、1つのツールセットで行える。MATLABモデルとオープンな環境で作られた他のAIモデルを自由に組み合わせられるし、組み込み機器、IT、OT、どこにでも実装できる」と強調する。
ロブナー氏が、従来システムと新たに開発したAIシステムを統合した事例として挙げるのが、米国カリフォルニア州の退職者コミュニティーを走行する自動運転タクシーを開発するVoyageだ。「AIベースの自動運転システムが自動車の制御システムの一部として組み込まれている。また、Simulinkを使ってさまざまな運転シナリオの検証も行っている」(同氏)という。
MBSEへの対応を視野に入れて新機能を投入
AI関連の機能拡充を着実に続けてきたMathWorksだが、次に向けた展開として視野に入れているのがMBSE(モデルベースシステムズエンジニアリング)への対応だ。
MATLAB/Simulinkは、国内を含めた自動車業界において、制御システムの設計プロセスで用いられるモデルベース開発(MBD)のツールとしてデファクトスタンダードになっている。MBDが制御システムという1つのシステムを対象に運用されてきたのに対して、MBSEは複数のシステムから成る複雑なシステム全体を対象とするシステムズエンジニアリングに基づく設計に用いられる。
特に、交通環境情報をはじめ他のさまざまなシステムとの連携が必要な自動運転システムの開発ではMBSEが必要なるといわれており、大手自動車メーカー各社が取り組みを加速させている。
MathWorksも、このニーズを捉えるべく、2019年3月発表のバージョン「R2019a」の新機能として、MBSEに対応する「System Composer」を追加した。System Composerを使うことで、上流における大規模システムの設計と、それらの大規模システムを構成する制御システムの詳細設計の間で自由に行き来できるようになる。ロブナー氏は「当社としてMBSEに対応するための最初の一歩になる。今後も、MBSE関連の機能拡充を続けて行く」と述べている。
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