骨格筋細胞のマイクロ構造をMRIで可視化する技術を開発:医療技術ニュース
慶應義塾大学は、MRIを用いて骨格筋細胞のマイクロ構造を可視化する技術を開発した。この手法が確立されれば、運動器の機能、疲労、トレーニング、疾患などの定量評価が可能になると期待される。
慶應義塾大学は2019年4月26日、MRIを用いて、骨格筋細胞のマイクロ構造を可視化する技術を開発したと発表した。この研究は、同大学医学部教授の中村雅也氏らの研究グループによるものだ。
骨格筋内の細胞構成比は筋生検によって測定するのが主流だが、身体への侵襲性に加え、手技が煩雑だ。一方、既存のCTやMRIなどの画像医学の技術では、筋細胞の種類を識別できず、筋生検を用いた組織学と同等の情報を得ることが困難だった。そのため、高解像度で侵襲性の低い筋細胞検査技術の開発が求められている。
研究グループは、q空間イメージング法を基盤とした新しいMRI撮像法を開発し、筋生検と同等のコントラストで筋組織を可視化することに成功した。q空間イメージング法とは、MRIによって水分子の挙動を把握する拡散強調撮像法をさまざまな条件設定で撮影して統合解析する手法で、ミクロンレベルでの水分子動態を把握できる。今回、これを用いて水分子の微細構造における変位量を解析することで、骨格筋細胞の種類による微細な差を感知できた。
また、マウス下腿部骨格筋断面の染色像と比較したところ、筋種類分布と筋細胞径で有意な相関が得られた。つまり、この手法は非侵襲でありながら、組織学と同等の精度を持つ筋線維タイプの識別法なことが確認できた。将来、この手法が臨床導入された場合、MRIを用いて約10分程度の短時間で撮影することができ、患者の負担は極めて低くなる。
今後、ヒト臨床試験を経てこの手法が確立されれば、運動器の機能、疲労、トレーニングの定量評価が可能になるという。さらに、骨格筋疾患の画像診断やメカニズム解明の新基準をもたらす可能性がある。筋種類分布や筋細胞径に基づく簡易なスポーツ適正判定、疲労度合い判定によるリハビリやトレーニングのスケジュール管理、高齢者サルコペニアなどのADL低下の原因解明など、医学、医療、スポーツ、健康に役立つことが期待される。
関連記事
- 気管の長さと太さが決まる仕組みを解明、筋肉と軟骨がサイズを決定
理化学研究所は、気管など管腔臓器の長さと太さが決まる仕組みを明らかにした。臓器形成の基本原理に新たな視点を提供し、管腔臓器の閉塞を来す病態の理解や、再生臓器の成形技術への応用につながることが期待される。 - 筋肉の再生促進に必要な、新しいタンパク質を発見
九州大学は、マウスの骨格筋の再生促進に必要となる新しいタンパク質「H3mm7」を発見した。筋再生などの機能破綻によって引き起こされる疾患の発見や治療法の開発、再生医療への応用が期待される。 - 光照射で筋肉を再生する技術を発表、ALSなど難病治療法開発に期待
東北大学大学院生命科学研究科の八尾寛教授らの研究グループは、光に対して感受性を持つ筋細胞を開発し、その細胞に光を照射することで、収縮能力を獲得した骨格筋細胞に成熟させることに成功した。 - 脳脊髄の髄鞘再生をMRIで可視化する手法を開発
慶應義塾大学は、MRIを用いて、脳脊髄の髄鞘の再生を可視化することに成功した。多くの病院に設置されているMRIを利用し、約10分程度の短時間で撮影できる。 - 水虫の治療薬が胆道がん細胞の増殖を抑制する効果を持つことを発見
慶應義塾大学は、水虫の原因である白癬菌を治療する薬「アモロルフィン」「フェンチコナゾール」が、胆道がん細胞の増殖を抑制する効果を発見した。胆道がんの新たな治療薬となる可能性を見出した。 - 「根気」を生み出す脳内メカニズムを解明
慶應義塾大学が、目標の達成まで行動を続ける「根気」を生み出す脳内メカニズムを解明した。根気を継続するには、腹側海馬の活動を抑制する必要があり、その活動抑制にセロトニンが関与していることが分かった。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.