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光照射で筋肉を再生する技術を発表、ALSなど難病治療法開発に期待:医療技術ニュース
東北大学大学院生命科学研究科の八尾寛教授らの研究グループは、光に対して感受性を持つ筋細胞を開発し、その細胞に光を照射することで、収縮能力を獲得した骨格筋細胞に成熟させることに成功した。
東北大学は2015年2月10日、同大大学院生命科学研究科の八尾寛教授らの研究グループが、光に対して感受性を持つ筋細胞を開発し、その細胞に光を照射することで、収縮能力を獲得した骨格筋細胞に成熟させることに成功したと発表した。
骨格筋が収縮能を獲得するには、電気刺激や張力などの外部からの刺激が必要とされている。しかし、従来の液性因子(タンパク質)による細胞培養法では、刺激に対して収縮運動する細胞が少なく、骨格筋を対象とした研究は、主に動物実験で行われていたという。
今回、同研究グループでは、緑藻の1種であるクラミドモナスで発現し、機能している光応答性イオンチャネル(チャネルロドプシン)の改変体を筋芽細胞に組み込むことで、光に対して感受性を持つ筋細胞を開発した。さらに、培養中の細胞に対して継続的に青緑色光を照射したところ、細胞内にある収縮の最小構成単位であるサルコメア構造の発達が促進されることを確認した。また、発達したこの筋細胞が、光刺激に応答して収縮することも明らかにしている。
同研究で開発された技術は、細胞分化を直接光操作できるもので、従来の電気刺激や薬剤刺激に代わる新たな技術として期待されるという。同技術を適用することで、筋萎縮性側索硬化症(ALS)など、極度の筋力低下を伴う重篤な難病患者に対し、失われた骨格筋の機能を補完・回復できる新たな治療法の開発にもつながるとしている。
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