東北大IFSが教える風洞活用の基礎知識:風洞実験の現場(前編)(1/2 ページ)
流体に関わるあらゆる現象を調べるために使われる風洞。これが一般向けにも安価に貸し出されていることをご存じだろうか。風洞と最新の関連計測機器などをそろえる東北大学に、風洞の基本や利用時に見落としがちなこと、使用事例などについて話を聞いた。
風洞は流体に関わる現象を知る時に欠かせない実験施設だ。近年はコンピュータを利用したCFD(Computational Fluid Dynamics)による流体現象への取り組みが増えているが、依然として風洞実験は重要だ。だが大がかりな設備になるため、簡単には自前で用意できないものだ。東北大学 流体科学研究所(IFS:Institute of Fluid Science)では、世界トップクラスの風洞を一般に貸し出すとともに、利用者のサポートも行っている。また風洞に加えて衝突試験設備も提供しており、「そよ風から大気圏突入速度まで」をカバーできるのが強みだ。
風洞の種類はさまざま
風洞とは流体の中に対象物を置き、対象物にかかる力や周辺の流れなどを調べる流体力学の実験装置である。装置の全体は送風機、整流部、断面積を徐々に絞って流体を加速させるノズル、測定部などからなり、流体が周回通路を循環する回流タイプと、外部に放出される一方通行のタイプに分けられる。回流タイプは測定部が外気に触れない密閉型と、外気に触れる開放型で使用できる。サイズは小さなものから小型飛行機が入るような30m前後のものまである。さらに流速がマッハ数0.3以下程度の低速風洞から遷音速、超音速、圧力風洞など、目的に応じたさまざまな種類がある。
用途は航空機や自動車の空力性能、エンジンの冷却や風切り音、またスキージャンプやボブスレーといったスポーツにも使用される。またマンションのビル風やコンテナクレーン、橋梁などの風力への耐性、風車などの検証にも用いられる。およそ大気中に存在するものは全てが対象になると言ってもいいかもしれない。
IFSの風洞施設は、低乱熱伝達風洞、小型低乱風洞、低騒音風洞の3つだ。他に衝撃波関連施設(弾道飛行装置)も所有する。東北大では産業利用を積極的に推進しており、これらの施設は文部科学省の「先端研究基盤共用・プラットフォーム形成事業」の対象になっている。安価で利用できるとともに専門家のサポートもついており、初めてでも安心して実験できる。
低乱熱伝達風洞の概略図。上段が上から見た図(風は時計回りに回る)、下段は横から見た図。「10」が送風機、「19」の12枚の金網を通して風の乱れを取り、「21」で断面積を小さくして風速を上げる。「1」が測定部(密閉型の場合)。出典は東北大学 流体科学研究所
大型・低乱れの風洞を利用可能
低乱熱伝達風洞は東北大で最も大型の回流式風洞で、測定部のサイズは密閉型の場合、流れ方向の長さが3.5m、流れ方向に垂直な断面は八角形で高さが1.01mだ。一般利用が可能な国内施設の中では最速だという(2015年2月13日現在、測定機導入のため貸出停止中)。「風洞の性能で一番重要な風速は最大秒速70m(時速252km)で、かなり高速での実験が可能です」東北大学 教授で流体科学研究所 所長の大林茂氏はいう。これらに加えて大きな特徴が、風の性質が極めて良い、つまり低乱であることだそうだ。乱れとは風速の揺らぎ(変動)のことで、この揺らぎがほどんどなく、風速の0.02%以内と世界でも屈指の低さだという。
「妥協せずに、(当時の設計で)考えられる限りのことをした」(東北大学流体科学研究所 次世代流動実験研究センター共用リエゾン室 研究支援者の小西康郁氏)そうで、この「きれいな流れ」があることで必要な割合の乱れ環境を作ったりとさまざまな実験が可能になるということだ。
小型低乱風洞は、密閉型の場合で試験部分の長さが1.0m、高さが0.29m、風速は秒速5〜70mで、大型のものよりも比較的小回りが利くといえるだろう。低騒音風洞については、簡易的な無響音室内に測定部が設置され、騒音源となる送風部分は階下に設置されている。流体騒音のメカニズムや騒音制御などの研究に用いられている。
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