計算科学で設計したスマートセルにより、医薬品原料の生産性を向上:医療機器ニュース
新エネルギー・産業技術総合開発機構と神戸大学、石川県立大学は、計算機シミュレーションを用いて微生物の代謝経路と酵素を新たに設計し、医薬品原料の生産性を2倍以上向上させることに成功した。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2019年5月7日、計算機シミュレーションを用いて微生物の代謝経路と酵素を新たに設計し、医薬品原料の生産性を2倍以上向上させることに成功したと発表した。NEDOと神戸大学、石川県立大学の共同研究グループによる成果だ。
ベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)は、鎮痛薬などの医薬品原料として使用されている。このBIAを植物から抽出するには効率やコスト面で課題があり、大腸菌からの生産も、生産量が少ないため、実用的ではなかった。また、代謝経路において、細胞内でBIAの前駆体化合物テトラヒドロパパベロリン(THP)を生成する酵素の活性が弱いことも課題だった。
同研究グループは、先行研究(京都大学)で開発された代謝設計ツール「M-path」を用いて、課題となっていた代謝経路をショートカットする経路と、BIAの生産性向上に関わる新たな代謝経路を設計した。
さらに、ショートカット経路を構成する酵素を自然界から探索し、構造シミュレーションを活用してアミノ酸配列を改変した。これにより、新規経路と従来の経路をバランスよく有する酵素が作成できた。
設計した代謝経路と酵素に関連する遺伝子を大腸菌に導入した結果、新旧の代謝経路が菌内で効率よく機能し、BIAの前駆体化合物THPの生産量が2倍以上に増大した。また、生産菌に対して代謝物の蓄積量を網羅的に測定するメタボローム解析を試みたところ、生産性をさらに向上させる代謝ルールを発見した。
今回の研究により、生物機能を活用して高機能な化学品や医薬品を生産する「スマートセルインダストリー」の創出が期待される。
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