検索
連載

ニッケル水素は駆動用電池でまだまだ現役、長寿命化の課題「メモリ効果」とはいまさら聞けない 電装部品入門(26)(2/2 ページ)

クルマのバッテリーといえば、かつては電圧12Vの補機バッテリーを指していました。しかし、ハイブリッドカーの登場と普及により、重い車体をモーターで走らせるために繰り返しの充放電が可能な高電圧の二次電池(駆動用バッテリー)の重要性が一気に高まりました。前編では、ニッケル水素バッテリーを中心に、その特徴や技術的な課題を紹介します。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

「電池の持ちが悪くなった」は許されない

 初代プリウスと時を同じくして、世の中では携帯電話機が当たり前のように普及していった時代でもあります。その携帯電話機のバッテリーに用いられていたのもこのニッケル水素バッテリーです。当時をご存じの方は是非思い出していただきたいのですが、半年〜1年ほど経過すると携帯電話機のバッテリーが1日持たない! といったことはありませんでしたか? いやいや、リチウムイオンバッテリーを使用している今でも同じような問題があるにはあるのですが、ニッケル水素バッテリーの時代は更に劣化が早かったのです。

 ではハイブリッドカーに用いられている高電圧バッテリーが、1年ほどで急激に性能低下したらユーザーは納得するでしょうか? ハイブリッドカーにおける高電圧バッテリーはもはやエンジンと同等のパワートレーンに位置付けされる機能部品ですので、保証を一切使わずに交換すると数十万円は覚悟しなければいけません。

 そこでニッケル水素バッテリーにとって寿命を短くする領域(電気の残量や充電速度など)を回避するように充放電制御を細かく行うことで、携帯電話機とは比較にならないほどの長寿命を実現しています。

 が……。

 結果として、一般的な自動車乗り換えのターゲット時期と考えられている10年10万キロまで安定的に満足できる性能を維持できたかというと非常に厳しい状況であったことは間違いありません。これは、使い方によって寿命が大きく前後するため、計算上は問題なくても不満足な結果に至ったという方が実際にいらっしゃったという意味です。

 そしてこの初代プリウスのパッケージを基準として、高電圧バッテリーに求められる大容量かつ高電圧、長寿命、そして相反するコンパクト化に向けた技術競争が始まりました。

厄介な「メモリ効果」

 ニッケル水素バッテリーの長寿命化を阻害する大きな要因としてお話ししなければならないのは「メモリ効果」と呼ばれるものです。これは決してニッケル水素バッテリーだけに発生する現象ではなく、ニッケル水素バッテリーが普及する前に充電池として使用されていたニカド電池も同様です。いや、正しくはこのニカド電池のメモリ効果を改善させたものとして注目されたのがニッケル水素バッテリーだったと記憶していますが、それでもまだまだ満足できるようなレベルには至らず、改善の余地があったというのが実情でしょう。

 メモリ効果はその名の通り、放電によって低下した電圧(起電力)を充電池自体が記憶してしまう現象です。例えば満充電時に1.5Vあった起電力が、放電によって1.2Vまで低下したと仮定します。ある機器は1.2V以上の起電力がなければ作動できない設計になっていたとすると、放電によって起電力が1.2Vまで低下した時点で機器が停止して充電切れと認知できますので、充電しようと思いますよね。

 そして充電によって満充電にしたにもかかわらず、従来の使用時間の7割程度しか放電していなくても作動保証電圧である1.2Vを下回ってしまう……これがメモリ効果です。


メモリ効果を表したグラフの例(クリックして拡大)

 上のグラフを例にすると、満充電にした時点では1.4V近くまで起電力が回復していますが、放電を開始してすぐに電圧が低下し始めていることが分かります。結果的に作動保証電圧に到達する放電時間が従来の7割程度になっています。しかし機器の作動を無視して低電圧のまま放電を続けると、実は全放電容量としては減っていないのです。これがとても厄介な所ですね。

 この現象は主に、度重なる継ぎ足し充電によって発生するといわれています。解消方法としては、記憶してしまった低起電力の記憶をリセットするために蓄えている電力を可能な限り放出し、改めて充電するという工程を行うことが最も知られています。

 ただし、自動車に搭載されているニッケル水素バッテリーは高度な電子制御の元で充放電を行っていますので、運転手の意思で意図的に放電を行おうとしても制御によって自動的に充電が開始されるといったプログラムになっています。

 そこも考慮し、メモリ効果を最小限に抑えるような放電領域まで使い切る制御も時代が進むにつれて活発に行われましたが、充電モードに入ってしまいますと、出力を削って充電に電力を分け与えることになります。つまり、そのタイミングと登坂タイミングが合致すると、出力不足で正常に登坂できないなどといった、自動車に求められる性能として致命的な事象に至る場合もあります。

 できるだけ充電容量は減らしてから充電させたいけれども、そこまで踏み込むと走行不能になるシチュエーションに遭遇しかねない、といったジレンマが生じることとなり、ニッケル水素バッテリーの限界かつ市場ニーズに応えるためにもメモリ効果がない次世代充電池へのシフトが急務となったのです。


 後編では、次世代充電池の代表格であるリチウムイオン電池の特性や、車載用となるまでにどのようなことがハードルとなったかを紹介します。

筆者プロフィール

カーライフプロデューサー テル

1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車両検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にしたメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により、自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る