バッテリー技術の進化がもたらす電気自動車への期待:IHS Future Mobility Insight(6)(1/2 ページ)
EV(電気自動車)の行方を左右してきたのは、良くも悪くもバッテリー技術だった。リチウムイオン電池の登場によりついにEV市場が形成されつつある。液体を使わない全固体電池への期待が高まっているが、2025年以降もEVのバッテリーはリチウムイオン電池が主流になるだろう。
排気ガス問題を端緒とした中国の急激なEV(電気自動車)シフトに加えて、英国やフランスが2040年までに内燃機関車を廃止する方針を打ち出すなど、EV市場が急速に拡大する流れが固まりつつある。もちろん、中国以外の新興国は今後も内燃機関車を使い続ける見込みであり、北米も原油価格の大幅な上昇がない限りEV市場が急激に拡大するとはいえないだろう。
それでも、まとまった形でEV市場が形成されることだけは確かなようだ。その要因になったのはバッテリー技術の進化だろう。
1891年に登場した最初のEVのバッテリーは鉛蓄電池であり、車重の半分を電池重量が占めていた。ゼロエミッション、ノイズフリー、クランクフリーを売りに当時の女性にアピールしたが、約50kmしか走行できないという性能問題で売れなかった。その約100年後、ニッケル水素電池を載せたEVが登場したが、やはりEVという商品はものにならなかった。この状況を変えたのがリチウムイオン電池だ。1997年に日産自動車が初めてリチウムイオン電池を採用したが、そこからの歴史は20年程度にすぎない。
全固体電池はハイプサイクルのピークに
EVを開発する上でリチウムイオン電池では性能が不足しているという意見も多い。それらの意見を持つ人々から期待を集めているのが、トヨタ自動車などが開発に注力している全固体のリチウムイオン電池だ。電解液を使わない全固体電池は、リチウムイオン電池と同様にEVにとってブレークスルーとなる可能性は高いが、現在はハイプサイクルでいう期待がピークに達している段階にある。実用化時期は、2020〜2021年という意見もあるが、2025年あたりが順当なところか。
さまざまなバッテリー技術のハイプサイクル(左)と性能比較(右)。鉛蓄電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池は既に期待のピークを越えたが、全固体電池はまさに期待のピークにある(クリックで拡大) 出典:IHS Markit
リチウムイオン電池そのものも正極や負極、電解液など材料の革新を経てエネルギー密度で300Wh/kgまではいくだろう。そういった技術進化を含めて、2025年以降も車載電池の主流はリチウムイオン電池になるのではないか。EVはもちろんハイブリッド車でも広く利用されるだろう。トヨタ自動車は現在、ハイブリッド車にニッケル水素電池を使っているが、性能だけでなく価格も同等以上になればリチウムイオン電池への移行はためらわないはずだ。
電池セルはラミネートが優位に
EVに用いられているリチウムイオン電池の電池セル形状は、角形、円筒、ラミネート(パウチ)の3種類に分かれる。例えば、1台のEVは、角形とラミネートで20〜30個の電池セルを搭載しているという。テスラ(Tesla)が採用する円筒の場合、「モデル3」が260個の電池セルを搭載している。
多くの自動車メーカーは、角形とラミネートの電池セルを使い分けているのが現状だ。2025年以降は、角形と比べてカスタマイズや温度管理が容易なラミネートが主流になるのではないか。テスラが採用する円筒については、複雑すぎる電池セル管理に他の自動車メーカーが対応できず、その結果として角形とラミネートを採用する結果になっている。
容量ベースで見たリチウムイオン電池の生産規模は、2016〜2020年にかけて年率40%で成長するだろう。これは、2016年時点でほぼ国内生産をしていない北米と欧州で生産が始まることや、日本や韓国での増産もあるが、何より中国での生産が圧倒的に伸びることが大きい。政府の後押しを受けて中国のリチウムイオン電池メーカー各社は「年産80GWhにしたい」とするなど、その勢いはすさまじい。ただし、実際に増産に踏み切るかは部材調達の問題なども含めて慎重にみる必要がある。
例えば、材料のうちリチウムは、埋蔵量はほぼ無限であるものの品質確保が難しいという課題がある。正極材料の1つであるコバルトは、生産国が中国とコンゴだけで、既に不足しつつあり価格も高騰している。
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