質量分析計のピークピッキングをAIで自動化、島津製作所と富士通が共同開発:人工知能ニュース
富士通は、同社ユーザーイベント「富士通フォーラム2019 東京」の内覧会において、「世界初」(同社)となる質量分析計の測定データ解析用AI(人工知能)を披露した。
富士通は、2019年5月14日に行った同社ユーザーイベント「富士通フォーラム2019 東京」(一般公開日:2019年5月17日、東京国際フォーラム)の内覧会において、「世界初」(同社)となる質量分析計の測定データ解析用AI(人工知能)を披露した。2016年11月から、質量分析計大手の島津製作所と共同開発を進めてきたもので、島津製作所の質量分析計向け多検体定量支援ソフトウェア「LabSolutions Insight」の新機能として近日中にリリースされる予定だ。
「富士通フォーラム2019 東京」の質量分析計データ解析用AIの展示ブース。AIが装置本体に組み込まれるわけではないが、イメージしやいように、島津製作所の液体クロマトグラフィー質量分析計「LCMS-8060」が展示された(クリックで拡大)
液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーを用いた質量分析計は、物質中に含まれる分子や元素といった成分を分析するのに用いられる。測定データは、成分と対応するさまざまな波形が組み合わさったスペクトルとして得られるが、正確な成分分析を行うにはスペクトルから分子や元素に対応する波形を読み取る「ピークピッキング」という作業が必要だ。
ただし、このピークピッキングは熟練技術者の経験やノウハウがなければ正確に行うことが難しいといわれている。ルールベースのアルゴリズムによる自動化も検討されてきたが、熟練技術者と同等レベルの精度を出せないことが課題になっていた。
今回のAI開発では、質量分析計スペクトルなどの時系列データに適用可能な富士通の深層学習(ディープラーニング)技術を用いることで、熟練技術者と同等精度のピークピッキングが可能になった。また、深層学習で得たAIの精度を向上するには教師データの量が重要だが、島津製作所が疑似的に教師データを生成する技術を開発することで確保できたという。
また開発したAIは、一般的なノートPC上で動作させられる軽量さも特徴の1つになっている。「最新のCPUやメモリの増設、GPUの追加が不要なので、LabSolutions Insightさえアップデートすればすぐに使える」(富士通)。
なお、現時点で対応している分析アプリケーションは、細胞培養に用いる代謝成分分析などに限られている。今後は、食品安全分析に用いる残留農薬分析など適用範囲を拡大していきたい考えだ。
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