Medtech×AIのゲートウェイとして注目されるモントリオール:海外医療技術トレンド(46)(3/3 ページ)
本連載で取り上げたカナダは、医療AIのリード役も担っている。今回は、ケベック州モントリオールの最新動向を紹介しよう。
医療AIの臨床研究クラスターを担うCRCHUM
医工連携主導のCENTECHや、予防保健主導のPERFORMセンターに対して、臨床医療主導のMedtechクラスターを担っているのが、モントリオール大学病院センター(CHUM)研究センター(CRCHUM)(図4参照、関連情報)である。
CHUMは、1995年、モントリオール市内にある3つの病院を統合してできたモントリオール大学関連の総合病院であり、2017年10月、現在のメガホスピタル・サイトで診療を開始している。病院規模は、ベッド数1,259床、総職員数約16,000人で、年間約500,000人の患者を受け入れている。この臨床医療現場に併設されたのがCRCHUMであり、ケベック州最大の医療研究拠点となっている。
CRCHUM傘下には、医療データ統合分析センター(CITADEL)があり、以下のような目的で研究活動を行っている。
- 患者ケアの向上に必要な情報を統合して、医療システムのパフォーマンスを上げる
- 研究とイノベーションを促進するために、簡単で、セキュアで、適正で、タイムリーな臨床管理データへのアクセスを提供する
CITADELは、地域医療に関わるデータレイク構築に向けたICT基盤づくりに注力している。
加えてモントリオール大学には、前述のヨシュア・ベンジオ氏がけん引するモントリオール学習アルゴリズム研究所(MILA)(関連情報)データ・バロリゼーション研究所(IVADO)(関連情報)といったAI研究拠点が整備されている。これらモントリオール地域に集積する世界最先端のAI研究者向けに、医療AI開発に必要な学習用データセットや臨床業務プロセスにおける実証実験の場を提供できる点が、CRCHUMの強みとなっている。
参考までに表3は、CRCHUM関連のMedtechスタートアップ企業事例を示している。いずれのスタートアップ企業も、実際の医療現場へのAI技術適用を目的とした製品やサービスの開発に向けた取り組みを行っている。
企業名 | ソリューション概要 | 企業URL |
---|---|---|
Dialogue Technologies | 従業員の健康/ウェルネスを向上させながら、企業のイノベーションを支援するVirtual Clinicプラットフォームや、AIトリアージ・ツールを開発・提供 | https://www.dialogue.co/en |
Seed AI | トレーングからアイデア開発、データベース監査、概念実証(PoC)、パイロットプロジェクトに至るまで、医療分野におけるAI導入を支援するソリューションを開発・提供 | https://seedai.ca/ |
Intelerad Medical System | クラウドベースの医用画像保存通信システム(PACS)、AIを利用したワークフロー分析・予測機能などを開発・提供 | https://www.intelerad.com/en/ |
Diagnos | AIを利用したコンピューター支援網膜症分析・診断アプリケーションを開発・提供 | http://www.diagnos.ca/ |
表3 CRCHUM関連Medtechスタートアップ企業の事例 出典:ヘルスケアクラウド研究会作成(2019年4月) |
Medtech×AIの環大西洋連携ゲートウェイの役割も担うモントリオール
ケベック州はフランス語圏であり、モントリオールは、パリに次ぐフランス語圏第2位の規模を有する都市となっている。文化的にも、フランスをはじめとする欧州諸国の影響を強く受けており、北米市場を狙う欧州スタートアップ企業にとって、モントリオールは、環大西洋連携のゲートウェイ的役割を果たしている。実際、モントリオールのAIスタートアップ企業には、欧州出身者も多く関わっている。
なお、2018年G7サミット議長国を務めたカナダ政府と、2019年のG7サミット議長国を務めるフランス政府は、2018年12月7日、新たに「人工知能に関する政府間パネル(IPAI)」を設立することを発表している(関連情報)。2019年6月のG20サミット議長国を務める日本政府は、貿易、デジタル経済、環境などの分野でフランスと連携していくことを表明しているが、今後、AIの扱いがどうなるかは、国際標準化の観点から注目される。
筆者プロフィール
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
Twitter:https://twitter.com/esasahara
LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/esasahara
Facebook:https://www.facebook.com/esasahara
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ≫連載「海外医療技術トレンド」バックナンバー
- TPP11とG20大阪サミットで注目されるカナダの医療機器サイバーセキュリティ規制
米国やオーストラリアで進む医療機器のサイバーセキュリティ規制改革だが、その国際規制調和をリードしているのがカナダだ。TPP11が発効し、G20大阪サミットも控える中で、同国の取り組みに注目が集まっている。 - 北欧型AI戦略とリビングラボから俯瞰する医療機器開発の方向性
本連載で取り上げた北欧・バルト海諸国のヘルスデータ改革の波は、AI(人工知能)戦略と融合しようとしている。 - APIエコノミーが主導する米国の医療データ連携とAI
本連載ではこれまでにも何度か米国の医療データ相互運用性標準化動向を紹介してきた。これに関連して、新たな経済インセンティブの仕組みづくりが加速している。 - 欧米に負けないオーストラリアのデジタルヘルス、NSW州にみるMedtechと地域創生
欧米にも負けないスピード感で地域単位のデジタルヘルスに取り組んでいるオーストラリア。同国で最大規模となるニューサウスウェールズ(NSW)州における、医療技術(MedTech)産業の振興と地域創生の取り組みを見てみよう。 - 米国のサイバーセキュリティ行政変革と医療機器規制
米国ではトランプ政権がサイバーセキュリティ行政組織の大変革を進めている。サイロ型縦割り行政の枠を超えたこの動きは、医療機器の領域にも大きな影響を及ぼしている。