AIによる都市交通管理システムの将来像を考える:和田憲一郎の電動化新時代!(33)(3/3 ページ)
2018年秋に中国杭州市における人工知能(AI)を活用した都市交通管理システム「シティーブレイン」が話題となった。2019年3月に杭州市を訪問し、これを開発運用しているアリクラウドの担当者から直接確認する機会を得た。そこで筆者が感じたのは、このAIによる都市交通管理システムは、まさに始まりにすぎないのではということであった。今回はAIを活用した都市交通管理システムはどこまで進展していくのか、将来像も含めて筆者の考えを述べてみたい。
MaaSとの関係
もう1つ、最近話題となっているMaaSと、AIによる都市交通管理システムの関係について述べたい。MaaSは、マイカーやタクシー、ライドシェア、バス、鉄道車両などを、予約から決済までシームレスにつなげるサービスである。その中で、多くのクルマはAIによる都市交通管理システムの対象となる。ということは、現在は、MaaSを予約すると、目的地までの最短方法や時間が表示される。しかし、今後はAIによる都市交通管理システムの判断を経て、それが本当に最短なのか、渋滞に陥る可能性はないのかなど連絡が届くことになるであろう。つまり、MaaSも将来AIによる都市交通管理システムの傘下に入るのではないだろうか。
鉄道車両に関しても、事故や故障などで路線ストップが発生している。これらトラブルが発生した場合、適切な移動方法は何なのか、他路線、乗り物、人の動きを見ながら人々に都市交通管理システムがアドバイスする、そのような時代が来るのではないだろうか。
AIによる都市交通管理システムの課題について述べたい。言うまでもないが、個人情報と公共情報との切り分けは重要であろう。中国で問題が起きない場合でも、日本では問題となる事例が多い。先般も、日本交通系のジャパンタクシーがユーザーに十分な説明をせず、位置情報を集めていたことが問題となった。
しかし、AIによる都市交通管理システムが日本以外の各地で普及し、交通事故削減や緊急車両による事故者救済などの事例が多くなると、日本においても、個人情報と車両情報などをきちんと切り分けし、車両情報などは共用することが望ましいと考える人が増えるのではないだろうか。
「渋滞学」がご専門の東京大学先端科学技術センター教授である西成活裕氏と面談した際、中国と日本という国の違いもさることながら、日本では行政、民間含めて縦割り意識が強く、交通情報を他に渡さない風潮があるとのことであった。
2018年にMaaS調査のために、フィンランド運輸通信省を訪れた時のことを思い出す。MaaSは、多様なモビリティに関する情報を相互に出し合うことでシームレスなつながりが可能となる。そのためフィンランドでは多くの法律を作成した。
またAIによる都市交通管理システムに依存するようになると、AIの暴走や判断ミスをどうやって防止するかも課題となる。ときには、人間が意図的に誤った情報を出し、AIが正常に動いているかを確認したり、別システムのAIにより都市交通管理システムに異常がないかを監視したりするなど、2重3重のチェック機構が必要になってくるのかもしれない。
2018年に逝去された英国の理論物理学者のスティーブン・ホーキング氏は、「ゆっくりとした生物学的な進化により制限されている人類は、AIと競争することはできず、AIに取って代わられるだろう」と警告している。AIに使われるのではなく、どう使いこなすかが問われている、そんな時代に突入したのだろうか。
筆者紹介
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
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