「MWC 2019」で見えた5Gとクルマの現在地:次世代モビリティの行方(4)(3/3 ページ)
これまでスタンドアロンな存在だった自動車は、自動運転技術の導入や通信技術でつながることによって新たな「次世代モビリティ」となりつつある。本連載では、主要な海外イベントを通して、次世代モビリティの行方を探っていく。第4回は、「MWC 2019」で注目を集めた「5G」と、そのユースケースの筆頭とされる「クルマ」の関係性をレポートする。
シェアリング時代の利便性向上をIDで実現
C-V2Xや5Gとは直接関係はないが、人とクルマの関係にフォーカスした新たな取り組みも発表された。
ドイツの通信事業者であるドイツテレコム(Deutsche Telekom、以下DT)は、2021年をめどに全ての加入者に対し「AUTOMOTIVE ID」を発行すると発表した。スマートフォンに登録されたAUTOMOTIVE IDを指紋認証するだけで、自動車のセッティングを個々人に合わせて設定するというものだ。
欧州各国では環境規制などの観点から、マイカーの乗り入れ禁止、クルマの所有から共有への転換の動きなどが活発化している。その結果、カーシェアやライドシェアなどのシェアリングサービスが主流となりつつある。実際に、これまでそれぞれカーシェアやライドシェアなどのサービスを提供してきたダイムラー(Daimler)グループやBMWグループが、MWC 2019に合わせた2019年2月22日にジョイントベンチャーの設立を発表。両社が連携をすることで、ユーザーの利便性に訴求するようなサービス提供を目指すことを表明している。
さらに将来、自動運転車による配車サービスが実現すれば、そもそも自家用車を所有する人が大幅に減る可能性も考えられる。その一方で、クルマを利用する際に、毎回異なる車体を利用するようになることが想定される。このため、車内環境をいかにその都度自分向けにカスタマイズできるかが1つの課題になってくるとDTは考えている。そこで同社は、AUTOMOTIVE IDの提供により、自動車メーカー各社が展開するコネクテッドカー向けサービスに加え、アマゾン(Amazon.com)の「Prime Video」や「Prime Music」、Netflixなどの契約中のサービスが、乗車する車体が変わってもシームレスに利用できるようにすることで、ユーザーの利便性を追求するとしている。
業界を超えて、戦略的な協業体制を見せるドイツ勢の取り組みは、現在のICT市場の状況を受けた現実的な選択であると考えられる。時代の流れを受け止めて、変化していく姿勢には自動車業界に限らず、学ぶとところが多いと感じる。
一方で、このような共通化の取り組みの結果、どのような側面で差別化を図っていくのか、ブランド以外の面でどのような独自色を各社が出せるのかといった点は注目に値するだろう。
5Gの導入と普及は、われわれの社会をもう一歩新しい段階に推し進める重要な技術要素であり、近い将来に社会インフラとなるものだ。IoTにより業界構造が見直され、多くのステークホルダーが事業の変革を迫られている中、自社がどのポジションを取っていくのか、各社ともそれぞれの立ち位置の再検討を迫られているといえよう。
筆者プロフィール
吉岡 佐和子(よしおか さわこ)
日本電信電話株式会社に入社。法人向け営業に携わった後、米国やイスラエルを中心とした海外の最先端技術/サービスをローカライズして日本で販売展開する業務に従事。2008年の洞爺湖サミットでは大使館担当として参加各国の通信環境構築に携わり、2009年より株式会社情報通信総合研究所に勤務。海外の最新サービスの動向を中心とした調査研究に携わる。海外企業へのヒアリング調査経験多数。
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