「MWC 2019」で見えた5Gとクルマの現在地:次世代モビリティの行方(4)(2/3 ページ)
これまでスタンドアロンな存在だった自動車は、自動運転技術の導入や通信技術でつながることによって新たな「次世代モビリティ」となりつつある。本連載では、主要な海外イベントを通して、次世代モビリティの行方を探っていく。第4回は、「MWC 2019」で注目を集めた「5G」と、そのユースケースの筆頭とされる「クルマ」の関係性をレポートする。
「超低遅延」の壁となるデバイス
ここからは、自動車関連の5Gの展示を中心に報告しよう。
エリクソン(Ericsson)の招待者限定ブースでは、MWCの会場(スペイン・バルセロナ)からスウェーデン・ヨーテボリに設置されている大型トラックを、5Gを用いて実際に遠隔運転するデモを行っていた。物理的な距離は約2500km離れているわけだが、伝送(通信)の遅延は、介在する通信機器や車両に搭載されたデバイスによるものを含め約100msとのこと。5Gそのものの遅延は4ms程度だそうだ。ちなみに、同様の実験をローカルで実施すれば約45msの遅延になるそうだ。
2年前にも類似のデモが行われたが、当時と変わらないのは、やはり介在するデバイスの処理にかかる時間により、実ユースケースにおいては5Gで謳われている「1ms以下の遅延」の恩恵を100%受けられない可能性があるということだ。無線区間以外の通信やデバイスなどの処理速度をいかに高速化させるかが引き続き課題のようだ。
5Gのユースケースとして期待されるC-V2X
携帯電話通信網を用いたV2X(Vehicle to X)である「セルラーV2X(C-V2X)」については、米国、欧州、韓国などを中心に実現に向けた取り組みが加速している。2019年1月にコンチネンタル(Continental)がC-V2Xと狭域通信(DSRC)の両方に対応した「5GハイブリッドV2Xソリューション」を発表した他、フォード(Ford Motor)も、2022年に全ての新モデルにC-V2X技術を搭載することを明らかにしている。
実際のところ、米国ではV2V(Vehicle to Vehicle)通信においてはDSRCが推奨されており、C-V2Xについてはまだ法的に認められていない。しかしフォードは「安全性確保のためにはC-V2Xは最善の選択であり、それを示すことで各社及び関連当局の採用を促していく必要がある」(Don Butler, Executive Director of Connected Vehicles & Services, Ford Motor)と主張している。
また、BMWも特にアジアでの取り組みに注力しており、同市場でC-V2X搭載を予定していることを明らかにした。BMWは、BMW Motorradブランドの二輪車メーカーでもあることから、C-V2Xの二輪車への搭載も検討している。「C-V2Xの搭載こそが、唯一モータサイクリストの安全を確保する手段である」(Joachim Goethel, Senior Manager Project 5G-Alliance, BMW)と強調していた。
C-V2Xの活用に期待を寄せる自動車メーカーの中で、5Gをどのように活用する計画であるかを示したのがアウディ(Audi)である。アウディは、いち早く車両にコネクティビティ(3G/LTE)を搭載した自動車メーカーであり、5Gについても重要な要素になる点を強調するとともにマイルストーンを設定した。5Gへの期待として「アップリンク/ダウンリンク」「カバレッジ」「超低遅延/QoS」「新機能」「ダイレクト通信」「エコシステム・料金体系の統一化」を挙げている。
アウディは5Gについて、100%のカバレッジを希望するがそれが難しいことも理解していると語った上で、幾つか具体的なユースケースを紹介している。特に同社が期待している領域が「ダイレクト通信(V2V:車車間、V2P:歩車間)」である。
例えば、歩行者がもつスマートフォンや自転車に搭載されたSIMカードと自動車を、基地局を介さずに直接通信させることで、人や自転車などの正確な場所を把握し、衝突を避けるというものである。また、自動運転車においては、例えばダイナミックインターセクション(動的な交差点:複数の自動運転車による路上での接触やデッドロック状態が起こり得る交差点)で、全てのクルマが通信しあうことで、接触することなく一斉に動き出すような実証実験にも成功している。他にも、コンチネンタルとボーダフォン(Vodafone)もC-V2Xやモバイルエッジコンピューティングなどさまざまな技術を組み合わせることで、自転車を含むV2P通信を実現し、歩行者の安全性を確保するソリューションを発表している。
これらのソリューションは5Gの有効活用事例であること、また、われわれの社会の安全性を確保する上では重要であると、いったことに説明は不要だろう。しかし、規制面を含め実現にはまだまだ時間がかかりそうである。
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