ヒトの歩く走るを数理モデル化、7つのパラメータで制御可能:医療技術ニュース
京都大学は、脳神経・筋・骨格系の数理モデルを用いて、人が歩き、走るための脳神経の制御様式を数理的に解明した。シミュレーションの結果、制御パラメーターのうち7つのパラメーターを変化させるだけで、歩行・走行とも実現できた。
京都大学は2019年1月24日、脳神経・筋・骨格系の数理モデルを用いて、人が歩き、走るための脳神経の制御様式を数理的に解明したと発表した。同大学工学研究科 講師の青井伸也氏が、IRCCSサンタルチア財団、東京大学、電気通信大学との共同研究で明らかにした。
人の動作を理解する上で、脳神経が運動に応じた筋の組み合せと活動パターン(筋シナジー)を複数用意し、それらを介して制御する「筋シナジー」という考え方が提唱されている。この考えに沿って歩行と走行の筋活動を計測すると、5つの筋の組み合せと活動パターンでほとんどの筋活動を説明できる。また、この組み合せと活動パターンは、歩行と走行で共通するものが多い。
研究グループは、5つの筋の組み合せと活動パターンを用いて、69個のパラメーターを持つ脳神経の制御モデルを構築。他に、頭と腕を含めた体幹1リンクと、左右の脚の大腿、下腿、足の6リンクからなる骨格、片脚に歩行と走行に主要な9つの筋肉を用いた筋と骨格の数理モデルを構築した。
さらに、これらの脳神経の制御モデルと筋・骨格モデルを統合した動力学シミュレーションを実施。その結果、制御パラメーターのうち7つのパラメーターを変化させるだけで、歩行・走行とも実現できた。また、7つの制御パラメーターを変えるだけで、歩行・走行とも一定の範囲で速度を変化させることができた。
今後、歩行と走行の制御様式の理解が深まることで、運動能力やコーチングの向上など、スポーツ科学への寄与が期待される。将来的には、筋シナジーに基づく治療やリハビリテーション法の開発など医療への応用、多数の関節を持つロボット、運動支援の外骨格ロボット制御など、工学的な応用も見込まれる。
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