Armは自動運転向けプロセッサの覇権を握れるか、本命は5nmプロセス:Arm最新動向報告(3)(3/3 ページ)
2018年後半に入って急激に動きを活発化させているArm。本連載では同社の最新動向について報告する。第3回のテーマは、「Arm TechCon 2018」でも地味ながらかなり力を入れていた自動車関連の取り組みを紹介する。
2022年ごろに自動運転レベル4向けの5nmプロセッサが登場か
当面Armは、これらCortex-A76AEとCortex-A65AEの組み合わせをADAS向けのソリューションとして提供していく方針であり、これに続くHercules-AEは2020年以降になる見込みだ。先ほど挙げたPhoto01/02には製造プロセスノードが載っていないが、こちらの記事※3)で示したように、Herculesの製造プロセスは7nm+(つまり7nmのEUV)もしくは5nmということになっている。
※3)関連記事:加速するArmのプロセッサロードマップ、ソフトバンクによる買収が契機に
現在、TSMCとサムスンが7nm EUVのリスク生産を行っている最中であり、2019年後半から本格的な量産が始まる。最終的にSoCが出てくるのが2020年、5nmについては順調に行けば2021年中であるが、まぁ2022年くらいを予想しておくのが妥当なところだろう。これとこの推定(図6)を照らし合わせると、Cortex-A76AEとCortex-A65AEの組み合わせは、米国自動車技術会が定める「SAE J3016」に規定されたレベル3の自動運転がターゲットであり、次のHercules-AEは7nm+でプロトタイプ、量産は5nmを使ってレベル4の自動運転をターゲットにする形になると思われる。
図6 これは2018年12月8日の記者説明会でロバート・デイ氏が示したもの。中央に自動運転レベルとそれぞれの要件が、その下に実現予定(もしくは実現した)の年が示されている。レベル3については、2018年9月に発表された「Audi A8」の第4世代がレベル3の自動運転を実装したので2018年ということになっている(クリックで拡大)
この話は別のセッションでもあった。10月18日に行われた“Arm and TSMC Enable Automotive SoC Designs”の中で、Armは現在自動車向けのIPはTSMCの「16FFC」を提供中だが、今後はさらに微細化したプロセスに向けてIPを用意する、としている(図7)。
具体的に何、という話はArm自身言及していないが、Armに続いて登壇したTSMCがこういうスライド(図8)を出した時点でまぁ答えがでているとはいえる。
ちなみに、TSMCは自動車向けに「TSMC9000A」というアセスメントを用意しており、7nmプロセスにもこれが適用される。恐らく、Armの7nmや7nm+/5nm向けのフィジカルIP/POP IPなど、TSMC向けのものはこのTSMC9000Aに準拠する形でリリースされるものと思われる(図9)。
図9 非車載向けの場合、通常だとPre-Silicon/Siliconの2つのアセスメントを行った後にVolume Production(量産)に入る形だが、TSMC9000AはSilicon AssessmentとVolume Productionの間に入る形で、より厳密に車載向けの要件に合致しているかを確認する(クリックで拡大)
7nmとか7nm+/5nmなどのプロセスは、デザインコストを含むNRE(開発コスト)が膨大な金額になるため、16/14nm FinFETの時に比べると移行の動きが遅いなどといわれている。しかし、ことADASに関する限りは7nm以下でないと実用にならない(5nmあたりが本命になりそう)ということもあってか、Arm自身もこの辺りのプロセスをターゲットに現在IPをそろえている真っ最中である、という動向が伺えたのがArm TechCon 2018の自動車関連の最大の話題としてもよいと思う。
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