公差がなぜ今必要なのか? 本当は日本人が得意なことのはず:産機設計者が解説「公差計算・公差解析」(1)(2/4 ページ)
機械メーカーで機械設計者として長年従事し、現在は3D CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者が公差計算や公差解析、幾何公差について解説する連載。第1回はなぜ今、公差が必要なのかについて話をする。
なぜ公差が重要だったのか
産業機械の場合、設計者が一般的にサイズ公差や幾何公差を決めます。更にいえば、チーム設計を行う場合、以下のように2通りの方法があります。
- 担当するユニット設計者がユニット組立図の設計を行い、その設計者自身が部品図を設計する時に、サイズ公差・幾何公差を決める
- ユニット設計者による組立図設計後、別の部品図設計担当が部品図作成を行う時に、サイズ公差や幾何公差を決める
前者は全て一人で設計するので、本来は、組立図における管理ポイントや、その管理ポイントに基づき部品に要求されるサイズ公差・幾何公差を理解しているはずです。後者は、ユニット組立図設計者が部品図設計者に対して、組立図における管理ポイントを伝えた上で、部品図設計者はサイズ公差・幾何公差を決めていく必要があります。
しかし、こんな話を聞くことはないでしょうか。
「流用元部品のサイズ公差・幾何公差のままでいいよ……」
筆者の経験では、産業機械の多くが「流用設計」(※2)を行います。
流用設計では新しい製品設計に適応させるために、単純に部品のサイズを変えるようなことも多くあります。流用元の設計は、既に製品として品質確認ができているため、“正しく流用すれば”流用設計した設計および製品の品質が確保できます。設計期間の短縮を行うこともできます。
流用設計は、3D CADを使用することにより、駆動させたい(サイズ変更をしたい)パラメータ化された寸法を編集する設計(パラメトリックデザイン)を容易に行うことができます。3DCADでは、この方法によりConfiguration(コンフィギュレーション)管理を行うことも可能です。しかし、流用設計を行うには、流用元の製品品質確認ができていること、流用元の仕様を理解していることが必須条件になります。
そうではなかった場合、問題を持つ設計と、品質確保できない製品を作り出すことになってしまいます。流用設計でのサイズ公差・幾何公差の取り扱いについて課題はないのでしょうか。
- 流用元のサイズ公差・幾何公差を理解しているのか
- 流用元のサイズ公差・幾何公差は正しいのか
サイズ公差や幾何公差は、特別に設計意図を盛り込まないような場合は、JIS(※3)で定められた一般公差が適用されることが多くあります。
「一般公差を正しく考慮した上でのサイズ公差の適用をしているのか」
「組立図管理ポイントを考慮した上で、一般公差で良いのか」
流用設計にしても(新規設計でも)正しく判断できているのでしょうか。
公差は、企業が個々に決めた公差テーブルに基づく場合もあります。加工会社によっては、サイズ公差や幾何公差を部品図面に記載した場合、積算的に見積金額が上がる場合があります。本来は加工会社と公差テーブルを取り交わすことにより、これを一般公差と見なし、見積もり金額を“むやみに”上げないことを意図するものが公差テーブルであり、この公差テーブルにあるものを適用する場合は、部品図に記載しないとすべきだと筆者は考えますが、このようなことをいう人もいます。
「公差を入れない設計をすべきだ」
「公差を入れるとコストが上がる」
もちろん公差テーブルに基づいて運用できているのであれば、問題はありませんが、もしそうではないとしたら、果たしてこの人は設計を理解しているのでしょうか?
このような考えの下、流用設計(新規設計も)行われていくことは、設計品質や製品品質を確保する上では、問題であるとしかいいようがありません。
このことは、過去記事『3σと不良品発生の確率を予測する「標準正規分布表」』のようなテーマからも明確になります。「管理しなければならないものが、その数値さえない」ということなのですから。
ここまでは、流用設計を含め「これまでの設計」「日本の設計と製造」という見方をすることもできるのではないでしょうか。
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