Armのサーバ向け戦略十年の計は実を結ぶか、新プロセッサ「Neoverse」:Arm最新動向報告(2)(3/3 ページ)
2018年後半に入って急激に動きを活発化させているArm。本連載では同社の最新動向について報告する。第2回のテーマはサーバ/クラウド向けの新たなブランド名として発表された「Neoverse」だ。
2019年はサーバ向け市場を狙う製品をさらに投入へ
そして、この先の構成についても部分的に明らかにされている。Ares Platformでは、図10のような構成がSGIとして提供されることになる見込みだ。先述したHuaweiのKunpeng 920は、この“Hyperscale and HPC”向けのSGIを利用したものと思われる。
MONOistのKunpeng 920の記事でも「100GのRoCEやPCI Express 4.0、CCIXなどを統合」とあったが、右端の構成がまさにこれだからだ。ちなみにCPU IPはAresとなっている。このAres(とかHelios)は何か? という話は前回の記事に書いたので割愛する。ただし、前回はHeliosの詳細が良く分からなかったが、その後自動車向けにCortex-A65AEが出た結果として、以下の特徴だけは明らかになっている。
- Super Scalar、Out-of-Order構成(パイプライン段数や同時デコード命令数/発行数などはまだ未公表)
- Cortex-Aシリーズとして初めてのSMT(Simultaneous Multithreading)構成。1コア当たり2スレッドをサポート
- 命令セットはArm v8.2A相当。ただしv8.3AのLDAPR命令がサポートされている。またサポートされるISAはA64(64bit命令)のみで、A32(32bit命令)およびT32(Thumb2命令)については未サポート
- Cortex-A53比で整数演算のパフォーマンスが70%アップ
Cortex-A55はインオーダー、2-wayスーパースカラーの構成で、同一消費電力だとCortex-A53比で約15%の性能アップ、という話だったから、どちらかというとローエンドがCortex-A55、ミッドレンジにHeliosといったラインアップになるのかもしれない。ちなみに、もともとCortex-A55のターゲットは10〜16nmプロセス、Heliosは7nmプロセスとなっており、実際はどちらのプロセスを使うかでCPUが決まりそうな気もする。
このAres Platformはもう少しブレークダウンした資料も公開されている。まず、図10の中央にある“Smart Offloading”は、最大でも16〜24程度のCPU数を想定したもので、どちらかというと図11の右側にある“Custom Acceleration”を、同左側にあるCPU群で制御するのが主目的と言った感じの構成である。
これよりもう少し上位にあたる“Edge Compute”(図12)では、もちろん“Custom Acceleration”も入るが、“Custom Acceleration”で対応できない処理などを積極的にCPUで行おう、という構成を狙ったものである。そして図13がまさにKunpeng 920で使われているもので、もう完全にクラウドサーバ向けプロセッサの位置付けである。
図13 よく見ると、CCIXを利用してのマルチチップ構成も可能になっているのが特徴的である。つまりこれまでマルチチップ用のインターコネクトの技術を持ち合わせていなかったベンダーであっても、マルチソケット構成のサーバを構築できるようになる(クリックで拡大)
現時点では、Zeus以降の詳細について明らかにされていないが、こちらはまだ設計中の段階だから致し方ないだろう。それでも、ここまでArmがIPやインフラを提供したことで、従来よりもサーバ向けの製品をずっと作りやすくなり、TAT(ターンアラウンドタイム)を大幅に短縮可能になったのは間違いないだろう。2019年は他にもサーバ向け市場を狙う製品が投入されてきそうな勢いである。それこそがArmの狙いであり、(まだ取り組みは始まったばかりとはいえ)今のところは順調に推移しているように見受けられる。
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