アフター市場は競争領域! 収益に結びつく5つの理由:いまさら聞けない「アフター市場収益化」入門(1)(2/2 ページ)
製造業のアフターマーケットが競争領域であるとの認識を持っている企業は決して多くない。本連載ではアフターマーケットがいかに収益に結びつくのかといった点に焦点を当て、事業的重要性や業務上の課題、今後の方向性等を解説する。
2. アフターマーケットは不況に強い
2008年に米国発で大きな不況が発生した時、グローバル規模でほぼ全ての企業において業績が大きく落ち込んだ。その時、企業の収益を支えたのがアフターマーケットであるというのが、その後複数機関の調査で判明している。
景気の低迷によって、企業も個人も新しい機材の導入や投資は控えるものの既に持っている機材の稼働確保はしなければならなかったということが、アフターマーケットに売り上げが集中した要因であった。
景気は必ず変動する。アフターマーケットを不況時のバックアップとして好況時から資本を投下することで、不測の事態に万全の態勢で臨むべきだ。
3. アフターマーケットは顧客満足度を大きく左右する
保守サービスに代表されるアフターマーケットの業務では、良い経験をした顧客がリピート客となることや他の顧客を紹介してくれることなど、いわゆる優良顧客になる可能性が高い。
一方で、悪い経験をさせてしまった場合には、その顧客と今後のビジネスチャンスは全く無くなってしまう。場合によっては悪評を流す等、他のビジネスの阻害要因にすらなる可能性がある。
カスタマーボイスがSNSなどで拡散されることが多くなり、サービス満足度が企業の業績やブランドイメージに直結するようになってきた事実は最早無視する訳には行かない。特に企業が横並びで優秀な製品を提供している業界では、優れた顧客体験を提供するようなアフターマーケットの構築が従来にも増して重要になってきている。
4. アフターマーケットは新しいビジネスを作る
仮に悪い経験をさせてしまったとしても、顧客からのクレームを真摯に受け止めれば、新しい優れた製品や優れたサービスを形成するうえで非常に大きな財産となる。
従来ではアフターマーケット部署のみで対応し死蔵してしまっていたかもしれない顧客の言葉を、積極的に確実に吸い上げてマーケティング部署や製品開発部署に伝達し、次に生かすことができる文化やシステムを作っておくことが肝要である。
製品提供からアフターまで、「カスタマーエクスペリエンス」を全社で充実させることが当たり前の時代に入っている。製品販売後の顧客窓口であるアフターマーケットの存在意義はますます高くなっているのである。
5. 新しい技術によって新しいアフターマーケットが作られる
IoT(モノのインターネット)で機材の稼働情報が取ることができる昨今、例えば機材の累積稼働時間を把握することによって、予防保全措置として定期的な保守を確実に実施することが実現するようになっている。
さらに、温度上昇や振動発生等の異常を早期に察知し、それらをMachine Learning(機械学習)やDeep Learning(深層学習)を用いてデータ解析することで故障を予見し、機材が機能停止する前に修理することも可能となった。
このように、IoTとその延長上にある高度なデータ解析を利用すれば、従来では想定することすらなかった高精度な予知保全が可能な時代となっている。この予知保全自体が、機材の稼働を確実に担保するという新しい付加価値を生んでおり、この稼働を担保すること自体が、アフターマーケットの在り方をより重要なものに変えていっているのである。
予知保全はまさに転ばぬ先の杖として、今後の製造業とその顧客の双方にとって益々重要なものとなっていくであろう。
アフターマーケットは製品販売の尻拭いは誤ったイメージ
このように重要なアフターマーケットであるが、上述したようにまだまだ日本においては大きな関心を持たれるほどに至っていない。これは一体どうしてなのだろうか?
その理由は、多くの日本企業が「モノづくりこそ最も重要な事業領域である」と強く思い込んでいるためである。その上で、アフターマーケットは製品販売の尻拭い、製品が売れているからこそ努力しなくても何とかなっている分野、アフターマーケットはコストセンター等の誤ったイメージが一部で固定化しているからではないかと思われる。
この誤ったイメージが有るがゆえに、アフターマーケットは社内において投資や業務改革の的となることもなく、一般的に特に関心を持たれない業務領域になっているようである。
理由はともあれ、アフターマーケットが重要なビジネス領域であることは本稿で述べた通りだ。製造業の皆様には少しでも多くの関心を持っていただきたいと強く願う次第である。
プロフィール
シンクロン・ジャパン(株)代表取締役社長
落合 克人
2013年に営業マネージャーとしてSyncronに入社し、以降、2014年からマネージングディレクターとしての役割を担う。製造業を相手としたB2Bソフトウェアの販売において、20年以上の経験を有している。
自動車部品の世界的サプライヤーであるデンソーにおいて、機械設計者としてのキャリアを積み、以降、PTCやDassault SystemesといったPLMベンダーにおいて国際的なプロジェクトを経験。早稲田大学理工学部機械工学士。
https://www.syncron.com/ja/
関連記事
- ≫連載「いまさら聞けない『アフター市場収益化』入門」バックナンバー
- IoTが製造業のサービス化を呼ぶ?
モノ売りからコト売りへ――。IoT(モノのインターネット)の進展により、一昔前に製造業の周辺で言われてきたサービスビジネス拡大の動きが本格的に広がりを見せ始めています。しかし、「モノ」を主軸としていた製造業が「コト(サービス)」を中心としたビジネスモデルに切り替えるのは容易なことではありません。そこで本稿ではサービスビジネスの基本的な話を分かりやすく解説していきます。 - 制約条件に着目した業績改善手法、TOCとは?
モノづくり企業が継続的に利益を創出することを“ゴール”に定め、具体的な方法論を提供するTOC(制約条件の理論)について、初学者向けに基本的な思想、用語、理論などをコンパクトに解説する。 - 戦略と戦術は似て非なるもの。その違いと連続性を整理しよう
「せっかく戦略を立てたのに一向に実現しないじゃないか!?」という悩みは多くの企業が抱えている問題。それは戦術に失敗しているからなのです。 - IoTとともに考えるべき、IoPとIoHの改善と向上
IoTの活用が広がりを見せていますが、上手に活用すれば製品品質の向上につなげることも可能です。本連載では、最新の事例を紹介しながら、IoTを使って製品の品質をどう向上させるかについて説明していきます。第1回となる今回は、IoTを取り巻く動きの概要について紹介します。 - 「アメーバ経営」とは何か
グローバル競争の激化により多くの日系製造業が苦しむ中、にわかに注目を浴びているのが「アメーバ経営」だ。京セラをグローバル企業に押し上げ、会社更生法適用となったJALを復活させた原動力は何だったのか。本連載では、「アメーバ経営とは何か」を解説するとともに、その効果を示す事例としてJAL整備工場での変化について紹介する。第1回となる今回は「アメーバ経営」そのものを紹介する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.