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制約条件に着目した業績改善手法、TOCとは?利益創出! TOCの基本を学ぶ(1)(1/3 ページ)

モノづくり企業が継続的に利益を創出することを“ゴール”に定め、具体的な方法論を提供するTOC(制約条件の理論)について、初学者向けに基本的な思想、用語、理論などをコンパクトに解説する。

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TOC Yes, we can!

 こんにちは、おそらく読者の皆さんは「TOC(Theory of Constraints)」なる単語と数年前にベストセラーになった小説『ザ・ゴール』はご存じではないかとかと思います。小説をお読みになった方は、ボトルネックの概念や継続的改善といった言葉も記憶に残っているかもしれませんね。それでも多くの方はTOCは生産性改善の手法であると考えておられるのではないでしょうか、もちろん本連載も「生産管理フォーラム」というカテゴリーに属していますから、間違いというわけではありません。でも、TOCという考え方はそれだけではないのです。

 私たちゴール・システム・コンサルティングでは年間数十社のTOC導入をお手伝いしています。その対象とする領域は生産改善のみならず、製品開発、セールス、マーケティングや戦略構築など企業のあらゆる領域にわたります。そしてその成果も、在庫削減や開発期間短縮などのローカルな成果だけではなく、直接的に利益を激増させる報告が相次いでいます。実は、TOCは製造業が利益をつくり出す具体的な方法論なのです。

 実はTOC的に見てみると、売り上げが上がらないのも、納期が遅れるのも、もうからないのも、皆それぞれに理由があり、難しい数式などを使うことなく理解できます。そして、その理由の裏側にこそ、企業が競争優位を確立しもうけ続ける仕組みを構築できるTOCの革新的な方法論が隠されています。

 本連載では、そういったTOCの利益創出の基本となる「造る(生産)」の優位性を確立する方法と、サプライチェーンのコントロール方を具体的な事例を含めて紹介していきます。今回は第1回として、TOCとはどんな考え方であるかを順に見ていきましょう。

TOCの基本的な考え方

 TOCは、営利企業共通の目的である、

現在から将来にわたってもうけ続ける

というゴールの達成を妨げる制約条件(Constraints)(注1)に注目し、改善を進めることによって企業業績に急速な改善をもたらす手法です。1970年代前半、TOCの開発者であるエリヤフ・M・ゴールドラット博士は、

工場の生産性はボトルネック工程の能力以上は絶対に向上しない

という至極当たり前の原理を提唱しました。工場の生産性を上げるためにボトルネック工程に同期させる生産を行い、資材調達もボトルネック工程に同期させるようにした結果、生産性が飛躍的に高まり、仕掛かり在庫や製品在庫が劇的に減少することを実証し、それをTOC(Theory of Constraints:制約条件の理論)と名付け、普及していったのです。


注1:制約条件(Constraint) 辞書を引くと(1)強制、(2)制約、(3)制限すること、(4)しがらみ、という訳にお目に掛かります。要するに何かをしようとしたときに「押さえ付け」たり「制限する」そのものという意味だそうです。


 その後、TOCはその考え方を企業活動全体に広げ、制約条件こそが企業収益を握る鍵であるととらえ、企業内外のさまざまな活動を制約条件に着目して分析することが重要であると主張したのです。その結果、TOCは工場内の改善から企業全体の収益を最大にする経営革新手法に発展し、さらに今日では大規模サプライチェーンのコントロールや営業・マーケティングの領域をもカバーする統合手法となっています。

 TOCの最大の特徴は、制約条件こそが、企業のアウトプット(利益)を増やす鍵と考えることです。工場の全工程、あるいは全社を挙げてさまざまな改善活動に取り組む従来の革新活動との最大の違いはここにあるのです。

 TOCでは、企業の活動全体もしくはサプライチェーン全体を1本の鎖に例えて考えています。この場合、

受注 → 原材料入手 → 生産 → 納入 → 請求 → 入金


という、最終的にお金が企業に入ってくるまでの個々の活動は鎖の輪の1つ1つに相当し、企業やサプライチェーン全体の収益力は鎖全体の強度としてとらえることができます。鎖の輪の中に1つだけ弱いものがあれば、鎖全体の強度はその弱い輪の強度と等しくなります(図1)。

図1 鎖全体の強度は、最も弱い輪の強度と等しくなる
図1 鎖全体の強度は、最も弱い輪の強度と等しくなる

 鎖を切れにくくするには、最も弱い輪を探してそれを強化すればよく、それ以外の輪の強度を高めても鎖の強度は増しません。これと同様に、企業やサプライチェーンの生み出す利益は、最も能力の低い活動の制約を受けるのです。利益を増やすには最も能力の低い活動を強化すべきで、それ以外の活動をいくら強化しても利益には貢献しません。この最も能力の低い活動に当たるのが「制約条件」なのです。

 生産現場で考えた場合、制約条件は能力の一番低い工程や設備ということになりますが、その原因は単なる能力不足だけとは限りません。そこで、TOCでは以下の3つの制約条件を規定しています。

物理的制約 純粋に生産能力が不足している場合

方針制約 社内の規定・制度や組織構造などマネジメントの仕組み・企業文化・風土に制約がある場合

市場制約 生産量が伸びない原因が需要不足にある場合

 この3つを正しく識別すると、制約条件が抱える問題を解決しやすくなります。このようにして制約条件の発見・解決を繰り返していくのが、TOCの経営革新手法なのです。

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