「速いマシンは美しい!」と何度でも言おう:車を愛すコンサルタントの学生フォーミュラレポ2018(2)(4/4 ページ)
お待たせ! 恒例企画。車とバイクが大好きなモノづくりコンサルタントから見た「全日本学生フォーミュラ大会」。2018年も楽しくレポートします! さて第2回はどの大学が登場するでしょうか。
No.28 上智大学(Sophia Racing)
赤、白、黒のカラーバランスが目を引く美しいマシンSR17を擁する上智大学のピットにお邪魔して、ドライバーの遠藤貴郁さんにお話をお聞きしました。
S まず2017年のマシンからの変更点を教えてください。
遠藤さん(以下E) まずはリアウイングのDRS、ホイール径を13inchから10inchにダウン、そしてダンパーの変更です。ホイールを小さくしたことで約4kgの軽量化になりました。
K エンデュランスの結果はどうでした?
E 自分が第一ドライバーだったのですが、天候がコロコロ変わり、路面にドライトウェットの部分が混在し非常に難しかったです。そしてセカンドドライバーに交代後電装トラブルでリタイアとなりました。
K 他の審査はどうでした?
E スキッドパッドが3位、プレゼンテーションが4位でした。
K エンデュランスが完走できていたら上位入賞でしたね・・・ ところで、真っ赤なマシンと言うイメージの2017年までと比べてカラーリングに白い部分が増えていると思うのですが?
E はい、2017年に新しいメンバーになった時にイメージを一新しようということで変えました。
K 総合順位はどれくらいになりそうですか?
E エンデュランスが完走できていないので、2017年と同じくらいかな?
S そもそも一桁ゼッケンのチームなんだから、盛り返さないとね。
E はい。そうそう、2018年の12月にはオーストラリアの大会に出ます!
K 過去の先輩たちも世界を見据えていたと思うので、是非頑張ってください。海外の大会に出れば気持ちも大きく変わると思いますよ。
E 「日本はこんなに強いんだぞ」と言うところを見せつけたいですね。
K そうですね!
S DRSだけど、自動制御になってるんだよね?
E いや、マニュアルです。ペダル式になっていて、ストレートでアクセルを踏み込むと同時にDRSのペダルを踏んで開きます。ペダルを離すと空気抵抗で勝手に閉じます。
S あ、そうか。それでいいんだ! シンプルでいいよね。
K 両足でペダルを踏むという普通のクルマとは違う操作は、ドライバーさんは混乱しませんか?
E 初めは戸惑いましたが、徐々に体が慣れてきて、今では体がむしろその操作を求めてきます。「よし行くぞ!両足で全開!」ですね(笑)
K 面白い!
S 2019年は是非完走してくださいね。期待していますよ!
上智大学は総合で34位と、2019年は少しゼッケンの数字が重くなりますが、ICV最軽量賞を受賞しました。3連覇を含む過去5回優勝と言う強豪チーム、きっとシングルゼッケンに戻ってくるものと信じています。
No.2 芝浦工業大学(SHIBA-4)
さて、今大会レポートで最後に取り上げさせていただくのは私の出身校、2017年は準優勝と過去最高の成績を収めた芝浦工業大学です。チームリーダーの諏訪一樹さんにお聞きしました。
S このマシンはデファレンシャルがないんですね。その狙いは?
諏訪さん(以下SW) 軽量化です。LSDを使わないことで5kgは軽くなります。車体後方での5kg削減は慣性モーメント面でも効果大です。
S でも、コーナリング時に内輪がスリップしているってことですよね?
SW はい。軽量化と、デフがないことでの走行時のデメリットのトレードオフをしっかり検討まいた。その結果、デフロックでも走行には全是問題ないと判断し、この構造にしました。
S 今日は雨だからさらに問題がないかもしれないね。
SW う〜ん、でもデフロックはレーシングカートのような走りができるので基本的に問題ないと考えています。
S あ、そうか、レーシングカートにはサスペンションもデフもないものね。でも学生フォーミュラでは少数派ですよね?
SW はい、特に日本大会ではほとんど見ないです。
S 2017年からの大きな変更点はそのデフロック以外にありますか?
SW デフロックは2017年からの採用なんですよ。2017年全く問題なかったのでそのまま採用です。
S あ、そうなんだ! 2017年はそこを聞き出せなかった(苦笑)。準優勝だもの問題があるはずないよね!
SW 2018年はエアロデバイスに力を入れました。
S 今部員数が45人くらいだと聞きました。小林記者は部員が3人になって部の存続危機の時代を知っているので、最近の大活躍を喜んでいるんですよ。
K 私の思い入れの強いチームなんです。部員は多く入るものの、辞めて行っちゃう人も少なくはないと聞いていますが。
SW はい。やはり活動は大変です。ある程度覚悟をして入部していただかないと続けるのは難しいと思います。
S 大学のOB・OGに毎年届く「芝浦便り」にも2017年の準優勝の記事が大きく取り上げられていました。学生フォーミュラファンのOBの私としては本当にうれしい限りです。
K 今回の悪天候の影響は?
SW 確かにスケジュールの変更が重なったりしましたが、臨機応変に対応して問題なく審査を受けることができています。
S 2017年の上位校はシード権として車検を優先的に受けられるんですよね?
SW はい。その車検なんですが、2018年は少し厳しめのようで、うちも含めて多くのチームが指摘を受けました。それに対応するために部品をサンダーで削ったり溶接したりして、今ここにいることができています。初日から結構ドラマがありました。メンバーの力に感謝しています。
S エンデュランスへの意気込みを聞かせてください。
SW ファイナル6にしっかり残れましたし、今現在の点数を見ると上位は僅差(きんさ)です。十分にチャンスはあると考えています。
K、S 検討をお祈りしています!
芝浦工業大学はアクセラレーション6位、スキッドパッド13位、オートクロス4位、エンデュランス14位と動的審査で安定した成績を収め、コスト12位、プレゼンテーション2位など静的審査でも好成績、総合順位は2017年の準優勝には届かなかったものの、7位に入りました。2019年もその鮮やかなイエローのマシンで上位を狙ってくれることでしょう。
テレビ放映をみましたよ!
この原稿を書き終える前、BS朝日で本大会の特区集番組が放映されました。三連覇を狙う京都工芸繊維大学、芝浦工業大学、そしてEVの名古屋大学をフィーチャーしつつ、大会の狙いや、学生たちの感情の動きなどをうまく捉えていて、とても良い番組になっていました。
無事完走してうれし泣きする学生、リタイヤで悔し泣きする学生……、見ている私ももらい泣きでした。この大会の主役はもちろん大勢の学生さんたちです。それを支える多くの自動車関連企業のOBやOGたちも本当にお疲れさまと言いたいです。
多分、学生フォーミュラも時代はEVに移っていくでしょう。クルマとモーターサイクルをこよなく愛する私は、この大会をできる限り長く見守っていきます。
筆者紹介
関伸一(せき・しんいち) 関ものづくり研究所 代表
専門である機械工学および統計学を基盤として、品質向上を切り口に現場の改善を中心とした業務に携わる。ローランド ディー. ジー. では、改善業務の集大成として考案した「デジタル屋台生産システム」で、大型インクジェットプリンタなどの大規模アセンブリを完全一人完結組み立てを行い、品質/生産性/作業者のモチベーション向上を実現した。ISO9001/14001マネジメントシステムにも精通し、実務改善に寄与するマネジメントシステムの構築に精力的に取り組み、その延長線上として労働安全衛生を含むリスクマネジメントシステムの構築も成し遂げている。
現在、関ものづくり研究所 代表として現場改善のコンサルティングに従事する傍ら、各地の中小企業向けセミナー講師としても活躍。静岡大学工学部大学院客員教授として教鞭をにぎる。
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