IoTは単なる流行語? 「売るモノを作る」プロセスを理解しよう:DMM.makeの中の人に聞く「IoTとスキル」(6)
IoTを業務に活用したい人たちをサポートしている、DMM.MAKE AKIBA のスタッフへのインタビュー。今回は、DMM.make AKIBAで技術顧問を務めている阿部潔氏の後編をお届けする。
IoT(モノのインターネット)を業務に活用したい人たちをサポートしている、DMM.make AKIBA のスタッフのインタビュー。3人目は、ソニーを退職後、DMM.make AKIBAで技術顧問を務めている阿部潔氏だ(>>前回も登場)。
漠然と「IoTやってみよう」は危険
―― IoTに関して、課題と感じていることはありますか。
阿部 「IoT」は、単なる流行語という見方もできますね。過去にさかのると、例えばユビキタスなど、同じようなことを意味する言葉はいろいろありました。要するに、コンピュータベースの技術をバックグラウンドにして、通信や物の流れなどを可視化し、普遍的に使えるようにしていこうということだと思っています。
IoTという言葉を使うのは構わないのですが、「よく分からないけれど、IoTをやってみよう」という感じで動くのは心配ですね。「『IoTを取り入れた商品を考えろ』といわれて困っている」というような話も、実際にあるようです。例えば、小さいながらも業界の一隅を照らしてきた部品メーカーが、本来設備更新に使うための資金を、自社に何がプラスか見えないまま、IoTのための社内インフラとかに使ってしまう。これは危険です。
逆に、IoTという言葉にとらわれることなく、時代のトレンドや技術革新などを読んで、世の中で普及してくる技術や機器は取り入れながら、自社の仕事の方向性を考えている会社は、危なげなく、かつIoTの流れもうまく捉えられるのではないかと思います。
―― IoTにおいて特に重要な要素は何だと思いますか。
阿部 私は通信が重要なカギになると思います。通信環境はどんどん進化してきましたし、今も変化している最中で、より高速の通信が一般化しようとしています。通信の垣根が下がると、いろいろなところに影響が現れます。例えば携帯電話もガラケーからスマホに急速にシフトしてきましたし、お母さんの日々の買い物にも変化が出てきます。
皆がいろいろなことをインターネット経由でするようになったから高速通信が普及するのか、通信が高速になるからもっと使うようになるのか、鶏と卵のようなものですが、IoTにとって通信はカギであると同時に、IoTが流行るおかげで通信環境が高性能化していくという一面もあるのではないかと思います。
最後から逆算してすべきことを考える
―― 阿部さんはDMM.make AKIBAで幅広い相談に対応していると思いますが、特に苦労する相談事はありますか。
阿部 素晴らしいアイデアがあって、それを実際どうやってモノにするのかというような、雲をつかむようなお話もありますね。それにはいくつか具体的な手法を提示するなどの対応ができるのですが、もっと難しいのは、できてしまったが動かないというようなご相談です。例えば、どこかに頼んで1つ作ってもらったらうまく動いたので、別の所で量産したら半分は動かなかったとか。
モノづくりの企業は、なぜ最初から量産しないのか。少しずつ数を増やしながら、「商品」として成り立つために必要ないろいろなテストをしているからです。例えば、まず1個作って正しい回路なのか、妥当な部品かを確認する。次は部品をきれいに整列させるなどして量産する準備をし、その状態でぶつからないかとか、蓋が閉まるかなどを評価する。さらに、振動とかほこり、熱、静電気、また耐久性などの試験もする。これらのテストに必要な台数を、設計見直ししながら作っているのです。これは、大企業でなくてもある程度必要なステップです。
―― では、これから商品の量産を目指す人のために、1つだけアドバイスするとしたら。
阿部 市場に投入するためには、作るだけではなく、いろいろなことを知らなければいけない。ハードウェアスタートアップを志すならば、そこを理解する必要があると思います。
最終的な商品は、先ほどお話したような試験を全部通過して市場投入されます。もし何らかの規格をクリアしたというマークを入れるならば、申請してから取得までの時間を逆算しなければならないし、申請に必要なデータは事前に収集しておかなければならない。データを集めるには、集められるレベルのものができていなければならない。その間にイベントに出展したり、先行して営業活動したりするならば、どの完成度のものをどういう見せ方にするのか……。つまり、最後から逆算して、いつ何をしなければいけないのか、その時どのレベルのものが何台必要なのかを全部考えなければならない。それには、売るモノを作るプロセスを理解している必要があるのです。
次回は、DMM.make AKIBAテックスタッフの椎谷達大氏が登場する。(次回に続く)
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