VR/ARで新しいSOLIDWORKSは「もっと見える」ようになる:3D設計推進者が見たSWWJ2018(3/3 ページ)
2018年11月9日に開催された「SOLIDWORKS WORLD JAPAN 2018(以下、SWWJ2018)」に参加しました。今回のテーマとして「Simulation(シミュレーション)」が押し出されていた印象です。Simulationというと「CAE(Computer Aided Engineering)」のことを開発設計工程では示しますが、今回与えられたSimulationの定義は、「現物ができる前に何ができるのか」ということで、その活用範囲を広く感じました。
トポロジー最適化解析の課題
会場では、ここ最近注目されているトポロジー解析の話も聞くことができました。SOLIDWORKS Simulationでのトポロジー最適化解析はメッシュ精度の影響によりその結果が変化します。
また境界条件(設定条件)によっても次の図のようにその結果は変わります。私もトポロジー最適化解析の評価を行っていますが、単体のモデルが分離してしまうような結果になることもあり、「まだ工夫が必要だな」と感じたり、「分離した時点でエラーでは?」と考えたりして、ベンダーサイドに技術改善要望を出しています。
SOLIDWORKS Simulationのトポロジー最適化解析の課題としては、やはり「結果をいかにフィーチャー化できるのか」(現状は生成データがポリゴンデータである)ということだと思っています。そもそもSOLIDWORKSがパラメトリックなモデルなので……。
トポロジー最適化解析は、私自身がまだ検証を行っているという段階ですが、他の「形状最適化」も含めて、現場での実用に向けて進んでいるところです。
流体解析関連の新ツール
流体解析関係としては、SOLIDWORKS Flow Simulationの新機能と、SOLIDWORKSのパートナーである構造計画研究所から粒子法解析アドインの紹介がありました。
Flow Simulationの新機能については、2018年6月以降に行われていたβ版評価でもその評価ができるようになったのが評価期間終盤であったことと、十分な説明を受ける機会を得られずにいただけに、私自身、とても興味を持って聞いた内容でもありました。
流体解析の新製品についてまとめてみると、以下のようになります。
- 関連付けられているゴール:境界条件のダイアログ ボックスから、境界条件の参照面または参照ボディーに自動的に適用されるゴールを選択できる
- カスタマイズされた表示パラメータ:数学関数と論理式(IF、More、Lessなど)を適用して、表示パラメータをカスタマイズできる
- コンポーネントエクスプローラからの2抵抗の編集:コンポーネントエクスプローラのテーブルから2抵抗を直接編集できる
- 半透明のサーフェスでの流束量の測定:半透明のボディーのサーフェスに入射する放射束量を測定できる
- 流束プロット:流束プロットを使用して、1つの構成部品から別の構成部品へ熱伝導で伝わる熱の量を表示することができる
- プロジェクトパラメータ:解析プロジェクト全体の境界条件を定義するためにユーザー定義の定数または変数が設定できる
- 断面のサーフェスパラメータ:複数断面平面のサーフェスパラメータを計算できる
その一例ですが、下の図では複数断面平面のサーフェスパラメータを計算表示しています。
前バージョン(SW2018)では、「自由表面が使えるようになったこと」が私の中では大きな機能改善のトピックでした。ただ従来の製品が持つ全ての機能を理解しきれていないので、まだまだ勉強する必要がありそうです。
粒子法の流体解析が身近になった
有限要素法に代表される格子法では、メッシュ(要素)という計算格子を使用します。SOLIDWORKS FlowSimulationもこの格子法を使用しています。格子法の場合は、流体がある位置、構造物がある位置にも格子が設定され、この格子は動かずに、流体はこの隣接する格子間を流動します。
流体の流動性が大きい場合、流動するであろう場所にも格子を作成する必要があり、解析計算精度を上げるには、格子サイズも細かく設定する必要があり、要素数が多くなることからとても多くの計算時間を要することとなります(CAEでは「コストがかかる」という言い方をします)。
粒子法は、簡単に言ってしまえば、この格子を作成しません。流体を粒子に分割してモデル化をしているからです。その粒子は流動とともに移動する計算点として扱われるので、流体の飛沫など、自由表面を伴う現象を扱うことが得意です。
構造計画研究所では粒子法流体解析ソフトとして、従来、「Particleworks」を提供していました。こちらでは「MPS(Moving Particle Semi-implicit)」法を用いています。MPS法は、非圧縮の流体および剛体を扱う手法です。対するものとしてSPH法があり、これは圧縮性流体を取り扱う手法で「Abaqus」(ダッソー・システムズ)などで使われています。
粒子法流体解析ソフトといえば、とてもハイエンドなものという印象がありました。私も今から5年以上前に、粒子の挙動を見たかったことと、当時はまだありませんでしたが、応力との連成を解析したいということからその導入を検討しましたが、そのコストや難易度を考えたところ、導入にはいたりませんでした。
今回お披露目された粒子法流体解析のアドインは、Particleworksと比べたら機能制限はあるものの、とにかく導入のハードルが下がったように思えます。ミッドレンジの3D CADとの連携により、設計者CAEとしてその活用が広まり、「さて、どんなことができるのか」と期待しています。
ソリューションは広がっているけれど、中小企業でも手を出せるのか
SWWJ2018で強いインパクトを感じたのは、「エコシステム・デジタルツイン」といわれるものの広がりと、その実現性の高さです。
今回はSimulationという言葉の定義に、現実感が加わりました。これも「3DEXPERIENCEプラットフォーム」の取り組みであり、開発設計・製造の進化を更に後押しするものとなるでしょう。
一方で、SOLIDWORKSのソリューションが広がりをみせていく中で、どれだけの企業がSOLIDWORKSソリューションの広がりに追従できるのかという疑問もあります。例えば他社の3D CADでは「設計から開発、製造まで、製品開発の全てのプロセスを1つのプラットフォームで」というSOLIDWORKSと同様なコンセプトで、初期導入は低コストとなる3D CAD/CAM/CAEの展開をしているケースも出てきています。
今回のSOLIDWORKSの新製品の情報を見ていると、
「このような仕組みを導入し、展開できていくのは大手企業だけになるのか」
「導入できない企業は勝ち組にはなれないのか」
と考えてしまいます……。
「設備投資を行うことにより効果を得ることができるし、失敗コストを削減できる」といわれれば理解でき、技術の未来に期待も抱く一方で、「システム導入により、増え続けていくランニングコストをどうすればいいのか」と、中小企業の3D CAD推進者としては、焦りと不安も覚え、悩ましくもあります。
さて2019年2月に「SOLIDWORKS WORLD 2019」が米国のダラスで開催されます。また何か、技術の変革となるものが発表されるのでしょう。もしかしたらそれはシンギュラリティかもしれません。楽しみですね。
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