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「実機レスによりデバッグ完了期間が1週間短縮」は大きいといえるのか3D設計推進者の眼(23)(1/3 ページ)

機械メーカーで3D CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者から見た製造業やメカ設計の現場とは。今回は、フロントローディングとはどういうことなのか、実機レスデバッグの試算例も見ながら考えてみる。

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 3D CADの登場によって、フロントローディングやコンカレントエンジニアリングというものは、果たして実現しているのでしょうか。

 過去、製造業で3D CADが広まってきた頃、フロントローディングについて誤って解釈されているケースがありました。私が聞いたのは、例えば「これまでの2D CADと比べて3D CADの操作には時間がかかるが、2D図面レス化によって出図までの設計期間は短縮可能である」といった内容です。

 2D図面レス化が実現できているのは、3D CADを導入した企業の全てではありません。受注生産型の産業機械メーカーについていえば、2D図面なしでは部品発注ができません。その発注元と発注先との間でデジタル化するなら、「部品表管理ベースで標準装置や準標準装置の部品図面管理を外部加工会社にお願いすること」や「紙図面ではなく、2D図面データをPDFファイルに変換して出図する」といったことになります。受注生産型の企業の仕事を受注する部品加工会社については、現場でのCAM導入の広がりが確かに感じられるものの、図面レス化についてはもう少し先の話ではないでしょうか。

 3D CADの導入がフロントローディングだとすれば、3D CADが設計初期段階で負荷になってしまうと私は考えています。また、3D CADを用いた詳細設計が設計者の負荷になってはならないとも思います(実際は、残念ながら、負荷になってしまっていることもあるようですが)。

フロントローディングを再定義しよう

 それでは、フロントローディングを再定義してみましょう。私としては、以下の図のように考えています。


フロントローディングの再定義

 この図で示すように理想的に実現すれば、開発期間、受注から製品出荷・検収期間の短縮につながります。しかしながら、これを実際にメカ設計、制御ハード・ソフトの開発設計部門が行うのだとしたらどうなるでしょうか。高度な品質要求、コストダウン要請、短納期要請、また設計者のリソース不足という環境下にいる設計者にとって、著しい負荷になっているだけです。

 実際に私がいた設計現場で実機レスデバッグをしていた時、このような声が聞こえてきました。

仕様変更しないと精度やタクトタイムが達成できないと思うけど、受注したっていうことは、もうお客さまとの間で仕様確定してるよね。変えられないよね。でも変えてよ。ていうか、誰がいつこの仕様を決めたの?


コストダウンっていっても、もう仕様が決まってるよね。資材では無理だよ


短納期だから設計に人を投入するしかない。でもこれじゃコストダウンにならないよね


リスク分析って誰がするの? 私は主担当から流用設計を頼まれて設計変更を行っているだけで、リスクは分からない。あなた(筆者である私が)がやって


過去問題について調べてみたけど、組立担当によって言うことが違うよね


DRに出てくる人は思い付きで言っているよね。それに設計が振り回されるのは迷惑だよ。DR表に記載されたらやらなきゃ後で怒られるしね


ソフトウェアって作文みたいなものだよね。だから、他の人の書いたプログラムって気に入らないんだよな


流用設計だったはずじゃないの? それなのにメカ設計がいろいろ要素を変えるから、プログラムし直しするしかないじゃないか


ソフトウェア担当が足りなくて、実機レスでの制御ソフト検証を行うはずが、DMUに向かってプログラムソフトを設計している。これって机上がDMUに変わっただけ?


シミュレーションの工数は誰が負担するの?


CAEの妥当性検証は、CAE担当者がちゃんと実機でやってよ


 ……と、こんな感じです。これでフロントローディングが成り立つのでしょうか。皆、他人ごとのようですよね……。

 単にツールを導入するだけで、フロントローディングが成立するわけではありません。ここに関わる人たちの仕事の考え方、仕事のやり方がまず大事だということは明白です。

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