日立は車載リチウムイオン電池も諦める、官民ファンドとマクセルに売却:製造マネジメントニュース
日立製作所、100%子会社で車載リチウムイオン電池事業を担う日立ビークルエナジーの資本関係を再編し、官民ファンドのINCJとマクセルホールディングスとの共同出資体制に移行することで合意したと発表した。
日立製作所は2018年12月25日、100%子会社で車載リチウムイオン電池事業を担う日立ビークルエナジーの資本関係を再編し、官民ファンドのINCJとマクセルホールディングス(以下、マクセル)との共同出資体制に移行することで合意したと発表した。INCJによる支援額は105億円を上限としている。基本合意書と併せて株式譲渡契約を締結しており、これらの取引は2019年3月29日に完了する予定。
INCJ、マクセルとの合意内容では、まず、日立が保有する日立ビークルエナジーの株式を両者に譲渡する。また、日立ビークルエナジーは新たに株式を発行し、INCJはその内の普通株式を、マクセルは同じく種類株式を引き受ける。併せて、日立の車載システム事業会社である日立オートモティブシステムズが、同社のバッテリーマネジメントシステム事業の一部などを日立ビークルエナジーへ吸収分割し、その対価として日立ビークルエナジーの普通株式を取得する。これらの取引により、日立ビークルエナジーの出資比率はINCJ47%、マクセル47%、日立オートモティブシステムズが6%となり、日立の連結対象から外れる。なお、議決権比率は、INCJ76.2%、マクセル14.0%、日立オートモティブシステムズ9.8%になる。
日立ビークルエナジーが手掛ける車載リチウムイオン電池事業は、韓国や中国など海外メーカーが台頭し、厳しいグローバル競争環境にある。例えば、日産自動車は2018年8月、リチウムイオン電池事業を手掛ける子会社のオートモーティブエナジーサプライ(AESC)を、中国系の再生エネルギー事業者であるエンビジョングループに売却することを発表している。ボッシュ(Robert Bosch)も2018年3月、電動車向け車載電池セルの内製断念を表明している※)。
※)関連記事:ボッシュが電動車向けバッテリーセルの内製化を断念、高過ぎる投資コスト
日立は「多様な投資実績によって蓄積された知見や情報ネットワークを有するINCJ、長年培った電池技術、ノウハウを有するマクセル、そして大手自動車メーカーへの豊富な納入実績を有する日立オートモティブシステムズの3社の経営リソースを活用することで、日立ビークルエナジーがグローバル市場における競争力を維持、強化できると判断した」としている。
一方、日立と日立オートモティブシステムズは、モーター、インバーターなどの電動化関連製品や制御技術に強みを持つ自動運転などモビリティ分野を含む社会イノベーション事業の強化を加速し、さらなる成長を目指す。なお日立は、今回外部に切り出す日立ビークルエナジーの他にも、2018年10月にカーナビゲーションシステムなど車載情報機器を扱うクラリオンを、フランスの大手サプライヤーであるフォルシア(Faurecia)に売却することを決めていた※)。
※)関連記事:日立オートモティブは“全方位”を諦めた、選択と集中でクラリオンを手放す
設立当時と同じくマクセルが出資することに
日立ビークルエナジーは2004年7月、当時の日立グループでリチウムイオン電池を手掛ける3社(日立、新神戸電機、日立マクセル)が合弁で設立した車載リチウムイオン電池に特化した事業会社である。当時の出資比率は日立36.7%、新神戸電機43.7%、日立マクセル19.6%。その後2008年1月に増資を行い、出資比率は日立64.9%、新神戸電機25.1%、日立マクセル10.0%となっている。その後、2010年4月に日立製作所が設立した電池システム社の傘下に加わった後、2011年4月には日立オートモティブシステムズとの連携を強化する体制を構築している。
日立グループの電池事業は2012年1月にさらなる再編が行われており、電池システム社を廃止し、車載用を日立ビークルエナジー、産業用を新神戸電機、民生用を日立製作所の100%子会社である日立マクセルエナジーが担当する体制に移行。これに併せて、日立ビークルエナジーの出資企業の1つだった新神戸電機は、2012年3月末で日立化成の100%子会社となり、2016年1月に日立化成に吸収合併され解散している。
また、2011年4月に日立マクセルから切り離される形で設立された日立マクセルエナジーも、2013年1月に日立マクセルに再統合され、その日立マクセルも2017年3月に日立が日立マクセル株式を一部売却したことにより、2017年10月に現在のマクセルホールディングスとして独立している。
これらのように、日立グループの電池事業は再編を繰り返しており、その中で日立ビークルエナジーの扱われ方も変化し続けてきた。最終的には、日立グループから外部に切り出され、官民ファンドのINCJと、設立当時の出資企業であるマクセルが再度出資する形で再出発を迎えることになった。
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