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製造現場が抱える課題にVRはどう役立つのだろうか【週刊】ママさん設計者「3D&IT活用の現実と理想」

まるで週1の連続ドラマのような感覚の記事、毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」。2018年12月〜2019年1月のサブテーマは『中小企業におけるVR活用の現実と理想のカタチを模索する』です。

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まるで週1の連続ドラマのような感覚の記事、毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」。2018年12月〜2019年1月のサブテーマは『中小企業におけるVR活用の現実と理想のカタチを模索する』です。


>>前回「VRと製造業ってイマイチ結び付かないんだけど」

SCENE 2:製造現場が抱える課題にVRはどう役立つのだろうか

 VR(仮想現実)システムは、頭の動きを感知するヘッドトラッキング機能を搭載した「ヘッドマウントディスプレイ(HMD)」、力のフィードバックを与える「力覚デバイス」、モノや人の動きをデジタル化する「モーションキャプチャー」といった装置の組み合わせで構成されています。これらによって、VR空間では見るもの全てが実寸で再現され、仮想空間での体験を現実の体験のように認識できるわけです。

 それでは、VRシステムの活用が製造業にどんな変化をもたらすのかを考えてみましょう。この時、何らかの課題を解決する手段としてVRがどう役立つのかを考えると理解が早いですよね。

 製造現場で作業をするのは主に人間で、それが故に「事件は現場で起きる」のです。事件が起きていろいろなロスを出さないために、事前にシミュレーションを行い段取りを組むんですが、この時、3D CADや3D CGを使ったシミュレーションではモノの大きさを実寸で再現することは不可能なので、2D画面の中でのシミュレーションと実際の作業感覚とのズレはどうしても起きてしまいます。

 この3D製造シミュレーションとVRとの大きな違いは、工場の空間と加工設備、ツールとワークのスケール感と位置関係を、その場にいるのと同じく手に取るように実感できるということです。つまり、VRを導入することで、実際の作業前にそれと近似した体感を得ながら予習ができるのです。

 これは、手掛けるモノが大きいほど効果も高いです。例えば、数トンクラスの大型の鋳造部品の二次加工を行うとしましょう。VRを使って実際の加工設備とその周辺の環境、ワークの寸法と形状などの感覚をつかんで作業シミュレーションを行い、安全性を図りながら加工に適した治具設計に役立てることもできますね。

 加工作業の他、VRが威力を発揮する現場としては装置の組み立てがあります。装置組み立てという作業は、部品点数が増えれば増えるほど手順を覚える苦労も増大しますし、作業性に関する心配も出てきます。そこで、大規模アセンブリ3DデータをVRで展開して実際の環境を再現し、作業者はその中で作業手順を頭と体で覚えることができます。その他、従来は実機を手掛かりにするしかなかった設置後の保守作業や修理についても、VRを適用することでスムーズな対応が期待できます。


東洋ビジネスエンジニアリングによる工場の生産ラインにおけるVR活用のデモ:「工場の生産ラインを手軽にVR体験、B-EN-Gが「Oculus」と「Kinect」で実現」

 「作ること」だけでなく「現場教育」にもまた、VRは活用できそうです。教えるのが苦手な熟練作業者に代わって、そのテクニックをVRで訓練することで技能伝承につなぐとか、安全教育に役立てるという使い方です。これは前回の冒頭で触れた「自動車運転免許の教習や飛行機の操縦訓練などで使われるシミュレーター」と似ていますね。教育というのは、「見る、聞く」だけではなく実践が効果的なのは言うまでもありませんが、不慣れな作業者がいきなり現場へ入ることは、事故の原因にもなりかねません。また、教育を受ける側のセンスと技量によって習得レベルは異なってくるので、「VRによるトレーニングを終えたら現場での実践へ」と、段階をへた教育ができます。


積木製作による安全教育ソリューションの例(出典:積木製作):「VRによる建築現場向け安全教育システムの建設現場版を発売」

 今どきの若手に「根性」とか「熱意」という精神論はあんまり通用しないようなので、指導する側もある程度システマチックな思考を貫いて、既存の技能伝承方法にVRを組み合わせることも検討していく時代かもしれません。


 次回は「SCENE 3:VRを導入した現場と導入しなかった現場の差とは」をお届けします。

(次回へ続く)

Profile

藤崎 淳子(ふじさき じゅんこ)

長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“ひとりファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組立、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。

・筆者ブログ「ガノタなモノづくりママの日常」



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