シェアリングの時代だからこそ重要になるモノの価値、足りないのは何か?:AI自然言語処理で暗黙知に切り込む(1)(2/2 ページ)
デジタル技術による変革が進む中、製造業にも非連続な変化を求める動きが広がりを見せている。その中でどのようなことを考え、どのような取り組みを進めていくべきだろうか。本連載では「AIによる自然言語処理」をメインテーマと位置付けつつ、製造業が先進デジタル技術とどう向き合うかについて取り上げる。
「体験のサービス提供」がもたらす製品サイクルの短期化
さらにシェアリングがより定着すると、モビリティは需要に応じて稼働することになる。必然的に稼働率が従来よりも格段に上がることが予想される。現在所有されている自動車は所有期間における95%が駐車場で停止している時間だとされており、設備稼働率の観点で考えると非効率な存在である。
しかし、シェアリングにより稼働率が上がると、モビリティの購入サイクルが早まるとも見られている。そうすると、製造業はより短いサイクルで市場投入が求められ、より高い開発生産性が求められることになる。
従来の日本の製造業は、高い品質を武器に高価格帯で勝負できる立ち位置にいたが、今後は「スピード」という軸が従来以上に重要となってくる。デジタルテクノロジーを武器に、多様な製品を圧倒的なスピードで市場に投入してくるプレーヤーがさまざまなトライ&エラーを実市場を使って実施し、そこでの成功事例を水平展開することで、市場を席巻する時代が来るだろう。
また将来的には3Dプリンタの成熟、AIのコモディティ化も相まって、異業種からの参入も相次ぎ、さらに買い替えのサイクルが上がることにより、低価格路線が加速する見込みだ(図3)。
筆者は、日本の丁寧な仕事はそのままに、市場投入までのスピードを手に入れることこそが、日本企業における今後の競争力の源泉になりうると考える。製造業に属する企業がサービスプロバイダーへの転身を図る戦略をとるケースも考えられるが、シェアリングの時代だからこそ、モノの品質がより重要になってくるのではなかろうか。不特定多数の人が利用するモノの品質が不確かであれば、サービスプロバイダーの競争力にも影響が出ることは自明である。日本の特性を生かし、さらにスピードという軸をいかに追加していくか、という点がポイントである。
第1回となる今回は、時代の変化に対する日本の製造業の取り組みとして、日本品質の維持と圧倒的市場投入までのスピードが重要であることを説明したが、簡単にスピードは手に入るものではない。次回は、製造業の足元の課題を述べ、解決のための糸口とAI活用について述べていきたい。
筆者紹介
山本直人(やまもと なおと)
KPMGコンサルティング Advanced Innovative Technology ディレクター
大手コンサルティングファームにおいて、中央省庁および大手製造、小売り、流通業などで大規模基幹システム開発、ECプラットフォーム開発などでアーキテクトを務める。オープンソースソフトウェアの啓蒙普及のための分散処理技術のコンソーシアムにも参加し、社外セミナーでの登壇、記事の執筆を行っている。
KPMGコンサルティングにおいて、先端技術を活用してビジネス変革を推進するAdvanced Innovative Technologyチームに所属し、提案活動やエンゲージメントのリード、最新テクノロジーを用いた世の中にないサービスの研究を進めている。
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