乗車料金を0円に設定するには、タクシーの媒体価値とスポンサーの期待:モビリティサービス
ディー・エヌ・エー(DeNA)は2018年12月5日、東京都内で会見を開き、タクシー配車アプリ事業を東京都内に拡大すると発表した。これまでは神奈川県内のみだった。これに合わせて、タクシーを広告媒体として扱うことで乗客が支払う乗車料金を無料にする新しいビジネスモデルも導入する。
ディー・エヌ・エー(DeNA)は2018年12月5日、東京都内で会見を開き、タクシー配車アプリ事業を東京都内に拡大すると発表した。これまでは神奈川県内のみだった。これに合わせて、タクシーを広告媒体として扱うことで乗客が支払う乗車料金を無料にする新しいビジネスモデルも導入する。モビリティのサービス化に向けた値付けの提案の1つといえる。
「0円タクシー」の第1弾は日清食品がスポンサーとなり、2018年12月5〜31日の期間で50台の0円タクシーを走らせる。気軽にタクシーを使ってもらうための選択肢を提供する試みだ。
日清食品は、カップ麺「どん兵衛」のマス広告を展開する一環で0円タクシーを活用する。2018年10月ごろにDeNAから広告出稿の打診があった。12月は1年間の中でどん兵衛が最も売れる最繁忙期であり、例年、駅やバスのラッピングなど交通広告を活用している。0円タクシーの新奇性や話題性、最繁忙期である12月にサービスがスタートすることに魅力があると判断し、出稿を決めた。0円タクシーの具体的な広告料金について、日清食品の担当者らは明言を避けたが「高くはないと感じている」と答えた。
話題性、既存の交通広告の料金……そう考えると“高くない”
0円タクシーでは、目的地が東京23区の場合に限り、迎車料金と運賃、有料道路通行料が無料になる。配車可能エリアは渋谷区、新宿区、港区、中央区、千代田区付近となる。期間中、7〜22時のあいだにDeNAのタクシー配車アプリで「0円タクシー by 日清のどん兵衛」を指定すると0円タクシーを呼ぶことができる。アプリを経由して配車しなければ乗ることができない。
0円タクシーを走らせるタクシー事業者には、DeNAを経由して日清食品から通常通りの乗車料金が支払われる。DeNAは日清食品から得た広告宣伝費を活用することで、0円タクシーを始めとする交通事業者向けサービスの認知獲得や、タクシーの利用拡大につなげる。
そのため、日清食品が支払う広告料金は、期間中1日15時間稼働する0円タクシー50台に発生した乗車料金(※1)プラスアルファだと考えられる。これに対し、JR山手線の駅構内にポスターを掲示する場合、7日間で数十万〜数百万円という料金プランとなる。「日清食品のCMやWebサイトでは0円タクシーの利用は呼びかけない。0円でタクシーに乗れてしまうという目新しさや、50台しかないという希少性によって、Web上で話題になることを期待している。従来の交通広告では話題になることが難しいので、ユニークさやクリエイティブさを求めていた」(日清食品の担当者ら)。
(※1)東京都内のタクシー運賃の上限は、1052mまでの初乗りが410円。以降、237mごとに80円加算する。時速10km以下の場合、90秒ごとに80円が発生する。
例えば、配車可能エリアである港区南部の品川駅から足立区北部の竹ノ塚駅までタクシーを利用した場合は、下道で約8000円、有料道路を使うとおよそ1万円となる。また、品川駅から練馬区の大泉学園駅まで有料道路を使うと約1万5000円となり、高額な乗車料金が発生するルートとなる。今回の0円タクシーは、1〜4人の乗客に対し、少なくとも乗車料金分の数千円〜1万円以上を費やすマス広告ということになる。話題になることを期待すれば、既存の交通広告と比較しても“高くない”という見方のようだ。
タクシーは「効果の高い広告媒体」
会見に出席したDeNA 執行役員でオートモーティブ事業本部長の中島宏氏は、タクシーが広告媒体の中でも高い宣伝効果が見込めると語る。車体のラッピングや車内でのプロモーション動画の再生、乗客と直接コミュニケーションが取れる自由度の高い空間であることがタクシーの強みだとする。試供品の提供やサービスの体験なども可能だ。乗客にとっては、無料でタクシーを利用できることだけでなく、新商品や新サービスをいち早く体験できることもメリットになるとしている。タクシー事業者にとっては、利用客の拡大も期待できるという。
こうしたタクシー事業者、乗客、スポンサー企業の関係性を生かし、タクシーを使いたい人と個々のドライバー以外も巻き込んだマッチングサービスを展開していく計画だ。0円タクシーについては、他の企業からも引き合いがあるという。
クルマを所有せず必要に応じて借りて利用することや、さまざまな移動手段を組み合わせて効率よく移動することに対するニーズが高まっている。移動手段に関わる企業や事業者が横並びでユーザーから比較される状況において、利用料金の値付けは重要な要因となる。タクシーがマス広告媒体として高く評価されれば、乗車料金をスポンサー企業からの広告料でまかなう仕組みも普及していくと考えられるが、企業はその費用対効果をどう見るか、注目だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- トヨタがクルマを売らない新サービス、「気楽に楽しくクルマと付き合って」
トヨタ自動車は2018年11月1日、自動車をサブスクリプション方式で利用できる個人向けサービス「KINTO」を2019年初めから開始すると発表した。税金や自動車保険、車両のメンテナンスといった費用を月極めの定額にし、好きなクルマや乗りたいクルマを好きなだけ利用できるようにする。 - 「ライドシェア」はタクシーの敵? 普及でクルマは売れなくなるのか
聞いたことはあるけれど、正確に知っているかといわれると自信がない……。クルマに関する“いまさら聞けないあの話”を識者が解説します。第3回は、世界各地で普及が進んでいるものの、日本国内では利便性を実感しにくい「ライドシェア」です。 - ラストワンマイルの移動を支えるバスとタクシー、「時代遅れ」から脱却するには
運輸業界のデジタルテクノロジー活用を推進する運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)は、「TDBC Forum 2018」を開催。特別講演では、“地域公共交通プロデューサー”として旧弊な交通事業・サービスの革新と公共交通の育成に取り組む名古屋大学大学院 環境学研究科 教授の加藤博和氏が登壇した。 - タクシーの需要を精度92%で予測、日々の売り上げ増にも貢献した深層学習
乗客が多そうな場所にタクシーが事前に効率よく向かうには――。NTTドコモ R&Dイノベーション本部 サービスイノベーション部 第2サービス開発担当の石黒慎氏が、タクシーの需要予測の実証実験について発表した。 - 吉利とボルボが仕掛ける新ブランド、クルマを「買わずに」「安く」使う
吉利汽車とVolvo Cars(ボルボ)が共同出資で立ち上げたブランド「Lynk & Co(リンクアンドコー)」は2018年10月19日、富士スピードウェイ(静岡県小山町)でセダンの新型車「03」を発表した。 - トヨタはモビリティサービスでどう稼ぐか、何を競争力にするか
人々の移動を助ける会社「モビリティカンパニー」を目指すトヨタ自動車。「モビリティサービス・プラットフォーム」の整備や、車載通信機の本格的な普及など、モビリティサービスの展開に向けた施策の狙いを聞いた。 - 製造業のサービス化、考えなければならない2つのリスクとは?
製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。しかし、そこで語られることは抽象的で、いまいちピンと来ません。本連載では、そうした疑問を解消するため、第4次産業革命で起きていることや、必要となることについて分かりやすくお伝えするつもりです。第8回は「製造業のサービス化」で考えるべきリスクについて紹介します。 - モビリティサービスが自動車市場に与えるインパクトはプラスかマイナスか
世界各国で普及が進むモビリティサービスだが、自動車市場にどのような影響を与えるのだろうか。中国と米国、欧州、そしてインドでどのような変化が起こるかを予想する。