ET展で組み込みAIはなぜ盛り上がらないのか:ET2018獣道レポート(3/3 ページ)
2016年、2017年に引き続き、エレクトロニクス/組み込み分野に詳しい大原雄介氏による「ET2018/IoT Technology 2018」の“獣道”レポートをお送りする。中国発の注目のArmチップや新たなLPWA規格などの展示があったものの、組み込みAI関連の展示は盛り上がらなかったようで……。
【朗報】次世代Arduino採用の「NINA-W102」、日本の技適を通っていた
ここでいきなり展示と全く関係ない話を。2018年5月17日、Arduino.ccは次世代のArduinoとして「Arduino Uno WiFi Rev2」と「Arduino MKR Vidor 4000」という2つの製品をリリースした。
Arduino Uno WiFi Rev2の方は、MCUを「ATmega4809」(プロセッサの性能は「ATmega3208」と同じだが、フラッシュメモリが32KB→48KB、SRAMが4KB→6KBになった他、UARTやPWM、Timer、ADC入力などがそれぞれ増強されるなどしている)に置き換え、Wi-Fiモジュールとしてu-bloxの「NINA-W102」を搭載している製品だ。まぁ、既存の「Arduino Uno WiFi」の正常進化版といったところだ。
一方、Arduino MKR Vidor 4000の方は、Microchipの「SAMD21」に加えてIntelの「Cyclone 10 CL016」(16KのLogic Elementと504KBのEmbedded RAMを内蔵)、それとNINA-W102を搭載した、FPGA搭載Arduinoである。このFPGAの扱いについては結構Arduino.ccの側で作業を行っており、今後は更に発展させて行くという、Arduino.ccの中でも力の入ったプロジェクトになっている。
にもかかわらず、日本でほとんど評判にならないのはなぜか、というとNINA-W102が技適を通ってないために利用できない、という非常に悲しい理由である。実際、NINA-W102のデータシートを見ると、現在審議中となっている(Photo24)。
ということで、会場でちょうどu-bloxがブースを構えているのを発見したので(ちなみに同社ブースはGNSSソリューションを中心に展示されていた)、展示物を無視していきなり「NINA-W102っていつ技適取得されるんでしょう?」と直撃してみた。すると、2018年10月の時点で既に技適が取得されている事が判明! ただしそれがドキュメントや製品に反映されるまでにはもう数カ月掛かるとのこと。実際に技適の証明番号が判明するのは2019年以降に持ち越しになりそうである。ただし、これが明確になれば、堂々とMKR Vidor 4000を国内で使うことができるようになるわけで、もう少しの辛抱である。あと、いきなり展示と関係ない質問して時間取らせて申し訳ありません>u-blox様
毛細血管を撮影できると何が分かる?
ちょっと興味をひかれた展示は「スタートアップ&グローバルパビリオン」に出展されていた「あっと株式会社」。同社は「血管美人」という毛細血管スコープと、そのデータを分析する「CAS」(Capillary Analysis System)というソフトウェアを展示していた(Photo25)。
要するに毛細血管を簡単に撮影できるスコープと、このスコープで撮影した画像から毛細血管の状態の数値化が可能なソリューションを提供している形だ。このソリューションは大阪大学との共同研究の成果ではあるが、ではその数値化した結果から何が分かるのか、という話は今まさにエビデンスを大阪大学が収集している段階ということで、端的に言えば実は毛細血管の数値を取得しても、それが何の役にもたたないという可能性もある。要するに、これから診断手法を確立してゆきたい、という段階のものでしかない。
普通に考えたら、こうした最先端のものはリスクも高いだけに、ベンチャー(会社概要によれば2017年時点での社員は4人だそうで、まぁベンチャーとしても差し支えはないだろう)企業にはハードルが高い気もする。しかし、逆に大手の医療機器ベンダーはもっと確実な分野での製品投入を望むだろうから、こうした最先端の分野にはあまり手を出さない気もする。筆者はこの分野での知見が無いので、これがどの程度有望なのかは判断が付かないのだが、こうしたチャレンジは応援したいところである。
ところで、ネームタグのビーコンはどうなった
ET2018の入場者証のネームタグは電波を発信するビーコンのようなシステムだったらしい(Photo26)のだが、会場入り口にはこんな掲示が(Photo27)。ナビゲーションサービスはこれの模様であるが、えーと、何があったんでしょう?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ≫ET2018特集ページ
- ≫連載「IoT観測所」バックナンバー
- 知る人ぞ知るプロセッサや計測器が自己主張、でも少し気になることが……
2016年に引き続き、エレクトロニクス/組み込み分野に詳しい大原雄介氏による「ET2017/IoT Technology 2017」の“獣道”レポートをお送りする。プロセッサや計測器などで興味深い製品が出展されている中、大原氏が気になったこととは……。 - 3大クラウドサービスの裏通りで、ひっそりと輝く組み込み業界の星々
エレクトロニクス/組み込み分野に詳しい大原雄介氏が、IoTブームに沸く「ET2016/IoT Technology 2016」をレポート。「IoTというより、もうちょっと組み込みっぽい感じで!」というMONOist編集部のざっくりした依頼に応えるべく展示会を訪れた大原氏の前には“獣道”が広がっていた……。 - 「COMPUTEX TAIPEI 2018」の半分は組み込みからできている
2018年6月5〜6月9日の5日間、「COMPUTEX TAIPEI 2018」が開催された。PCやモバイルの展示会として知られているが、組み込み関連の展示も多い。新たな展示企画「InnoVEX」も加えて紹介しよう。 - 「COMPUTEX TAIPEI 2018」で静かに始まるx86からArmへの置き換え
「COMPUTEX TAIPEI 2018」の組み込み関連展示レポートの後編をお届け。あまり盛り上がっていないLPWAや、中国系SoCのSOM/SBCでの躍進などを紹介するとともに、前回と比べて着実に進んでいたx86からArmへの置き換えについても紹介する。