単純ならざる自動運転技術の市場予測、7つの要因が「物差し」に:IHS Future Mobility Insight(9)(2/3 ページ)
従来の自動運転技術の市場予測は「自動車メーカーの機能展開」と「センサーの技術進化」といった要因に焦点を当てていた。しかし「輸送サービス市場」と「個人所有自動車市場」に分けて予測するにはそれらだけでは足りない。7つの要因が「物差し」となるだろう。
「運行設計領域」を無視したビジョンはあり得ない
それでは、新たに加わった要因の中でも重要なものを見ていこう。
商用、自家用を問わず重要な要因は「コスト」である。ファミリー向け自動車の場合、その購入決定権を持つのは家計を管理している妻であることが多い。つまり、妻が納得する価格帯と動機付けがなければ、自動運転車は普及しない可能性が高い。では、妻が納得する動機とは何だろうか。
例えば、「自動運転車のほうが、ドライバーが楽できる」という理由は、納得の動機になる可能性が低い。運転手である夫に「楽をさせる」ために、多額のコストを払う妻は少ない(と推測する)。しかし、「自動運転車のほうが圧倒的に安全」となればどうだろうか。子供を持つファミリーであれば、安全性能にはコストをかけるはずだ。消費者意識が高まれば、市場は発展する。
もう1つ注目したいのが「法・規制」である。「どういう時に」「どの範囲内で」自動運転車が利用できるといった、いわば「枠組み」だ。それが「運行設計領域(Operational Design Domain、以下ODD)」である(図2)。
ODDの重要性は、国も明確に示している。2018年9月に国土交通省が公開した「自動運転車の安全技術ガイドライン」では、自動運転車が満たすべき車両安全の定義を、「ODDにおいて、自動運転システムが引き起こす人身事故であって、合理的に予見される防止可能な事故が生じないこと」と定めている。そのうえで、「ドライバーモニタリング機能の装備」「サイバーセキュリティ対策」「ユーザーへの情報提供」など、自動運転車が満たすべき安全性に関する要件を設定している※2)。
※2)関連リンク:国土交通省「自動運転車の安全技術ガイドラインの策定〜自動運転車の開発が一層促進されます〜」
分かりやすい例を挙げてみよう。ゴルフカートを考えてほしい。
ゴルフカートの中には遠隔コントロールで自律的に走行できる「完全自動運車」が存在する。SAEのレベル5をすでに実現しているのだ。ただし、ゴルフカートには決められた限定条件(ゴルフ場内のみ、低速での運転)がある。公道でもゴルフカートが縦横無尽に自動運転できるわけではない。
限定条件が多いほど、その市場規模は制限される。市場が拡大するには、限定条件を減らさなければならない。そのためには先の図に示した7つの要因を考慮し、それらをクリアする必要がある。市場規模を予測するには、これらの要因がどこまで影響し、将来的にいつ頃(どのような形で)クリアできるのかを考慮しなければならない。
輸送サービスの場合、「無人による完全自動運転」を前提とすると、安全性担保の観点から、運行できる領域は特定地域や専用レーンに限定されるだろう。その場合、運行地域のインフラを整備する必要などもあるため、市場規模は小さくなる。
ただし、運行領域が限定されていたとしても、そこに大きなビジネスニーズがあれば、市場規模の拡大は期待できる。極端な例だが、高速道路に自動運転車専用の物流レーンを設けたり、物流専用の地下トンネルを建設したりすれば、制限となる要因はなくなる。そうなれば、輸送サービスに特化した自動運転車が一気に普及する可能性も否定できない。
自動車メーカーにとってもODDは重要な役割を担う。例えば、あるメーカーが「この車種はSAEのレベル3で、2020年までにはレベル4の技術を搭載する予定」だとアナウンスしているとする。その場合、自動車メーカーは「どのような環境下で」「どのような用途で」「何を最重要項目としているか」といったODDのフレームワークを示せば、技術的な先進度を誤解のないように訴求できる。
そのためには、「この条件下では100%の性能を発揮できます」というようにODDを考慮し、その領域を明確する必要がある。現時点においては「公道でも雪道でも、あらゆる状況下でレベル4(高度な自動運転)の性能を発揮できます」というのは、非現実的だろう。ODDが曖昧なまま技術を訴求し、受け取る側がODDを念頭に置かないで評価すると、市場動向を見誤る。
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