単純ならざる自動運転技術の市場予測、7つの要因が「物差し」に:IHS Future Mobility Insight(9)(1/3 ページ)
従来の自動運転技術の市場予測は「自動車メーカーの機能展開」と「センサーの技術進化」といった要因に焦点を当てていた。しかし「輸送サービス市場」と「個人所有自動車市場」に分けて予測するにはそれらだけでは足りない。7つの要因が「物差し」となるだろう。
2つのビジョンの間に横たわる大きなギャップ
2018年10月4日、トヨタ自動車とソフトバンクは共同出資で「MONET Technologies(モネ テクノロジーズ)」を設立したと発表した※1)。今後、両社では自動運転技術など、新モビリティサービスの共同事業を行っていくという。
※1)関連記事:トヨタが進めるコネクテッドカー“3本の矢”、ソフトバンクとの新会社も矢の1つ
自動運転分野への取り組みは、トヨタ自動車やルノー・日産・三菱自動車、BMW、フォルクスワーゲン(VW)といった自動車メーカーだけではない。ソフトバンクやNTTデータなどの情報通信系企業、デンソーやパナソニックをはじめとする自動車部品メーカーなども取り組みを表明している。
こうした状況下で筆者が強く感じているのは「自動運転車の開発に取り組むメーカーが示すビジョン」と、筆者が所属するIHS Markit(以下、IHS)が収集した「データから客観的に市場を見たビジョン」の間に大きなギャップがあることだ。
なぜこのようなギャップが発生するのか。今回はそのギャップの根源を整理するとともに、「どの程度のギャップ」が「どのような要因で」存在するのかを詳らかにしていきたい。
なぜ自動運転技術を利用するのか、目的を整理しよう
IHSは先ごろ、「先進運転支援および自動運転技術の市場に関する調査・予測レポート」をまとめた。この調査内容については近々公開する予定だが、今回からは自動運転技術の市場を拡張しており、「輸送サービス市場」と「個人所有自動車市場」の2つに分けて捉えるようにした。なぜなら、輸送サービスと個人所有自動車(自家用車)における自動運転技術利用の目的は、その方向性が異なるからである。
自動運転技術は、「誰が」「何の目的で」利用するかによって、関係する要因とその影響が異なってくる。先進運転支援機能と自動運転技術の普及を長期的に予測する上で大切なのは、不確定かつ複数の要因が関わることへの理解だ。
ではどのような要因があるのか、具体的に見ていこう。
現在、自動車の大半を占める自家用車の自動化目的は「安全性能の向上」だ。一方、輸送サービス車両の自動化の目的は「労働人口減少の対策(ドライバー不足の解消)」であり、「交通システムの維持」「新サービスの創造」などを目指している。両者は先進運転支援、自動運転という同じ技術を利用するものの、そのゴールが違うのだ。ゴールが異なれば、そこに至るまでのアプローチも要求される条件(領域)も違ってくる。
例えば、ドライバーがいなくても運行可能な(無人での走行を前提とした)輸送サービスの自動運転レベルは、米国自動車技術会(SAE:Society of Automotive Engineers)が定義した自動運転レベルのレベル4(高度な自動運転)〜レベル5(完全自動運転)を満たしていなければならない。もちろん、安全レベルも公共交通機関と同様のレベルが求められる。SAEのレベル5とは、人間と同等の運転やとっさの判断も、システムが自動で制御できる状態を指す。
一方、「交通事故死ゼロ」をゴールとし、「安全性の向上」を最優先解決課題とする自家用車にとっては、レベル5の完全自動運転は必須ではない。人間とシステムが協調したほうが、安全性能が向上するのであれば、技術的には可能であっても、完全自動化を目指さないことも考えられる。
図1を見てほしい。IHSの新たな調査では、ここに示した7つの要因が、先進運転支援機能や自動運転技術の普及に影響を及ぼすと定義している。
これまでの調査では「自動車メーカーの機能展開」や「センサーの技術進化」に焦点を当てていた。しかし、「輸送サービス市場」と「個人所有自動車市場」の両方を見る場合、「サプライチェーン」「コスト」「消費者意識」「法・規制」「インフラ」といった複数の要因をフレームワークとして捉えなければ、両市場を長期的に予測することは難しいのではないか。IHSはそう判断し、自動運転市場に関わる要因を再定義したのだ。
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