粒子線治療時の照射量に近い環境下でのガンマ線の撮像に成功:医療機器ニュース
東北大学は、京都Space Gamma、山形大学、京都大学の協力の下、粒子線治療時の照射量に近い環境下でのガンマ線の撮像に成功した。より信頼性の高いがん治療が期待できるという。
東北大学は2018年10月24日、290MeV/u、炭素線2×106cpsという粒子線治療時の照射量に近い環境下でのガンマ線の撮像に成功したと発表した。より信頼性の高いがん治療が期待できるという。同大学未来科学技術共同研究センター 准教授の黒澤俊介氏らによる研究グループが、京都Space Gamma、山形大学、京都大学の協力の下、研究した成果だ。
研究グループは、粒子線治療中でもリアルタイムに体内のどの深さに粒子線を照射しているか分かる撮像カメラ「電子飛跡型コンプトンカメラ」を開発。同カメラは、既存のガンマ線撮像カメラでは不可能だったガンマ線1光子ごとに到来方向とそのエネルギーを測定でき、ノイズにも強い。
2×106cpsという実際の治療時の照射条件に近づく照射流量条件で、290MeV/uの炭素線を人体に見立てたアクリル容器に照射させ、そこから放出するガンマ線を撮像した。その結果、電子飛跡型コンプトンカメラを使用したガンマ線の撮像に成功。予想されるガンマ線分布通り、ビームが入射した側からブラッグピーク位置でガンマ線の発生が多くなり、ブラッグピーク手前で大量のガンマ線が放出された。
現在は高解像度化を図るため、電子飛跡型コンプトンカメラの部品であるシンチレータを改良しており、今後は新しい国産シンチレータを量産化して搭載する予定だ。
がんを治す放射線治療の1つである粒子線治療は、体内のがんの深さにブラックピークの位置を合わせることで、体内深部のがんのみを狙い撃ちでき、副作用を減らせる。ブラックピークの位置は、治療前に撮影したX線コンピュータトモグラフィ上での体内のがんの位置に基づいて決めるが、計算で見積もられた位置と実際に粒子線治療中のブラックピークの位置が一致しているかどうか分からず、広めの領域で治療をしていた。
ブラッグピークとがんとのずれを少なくするため、ガンマ線を利用してブラックピークをトレースする方法の開発が進められている。しかし、既存のガンマ線撮像カメラでは、部屋全体からも粒子線に由来する2次粒子やガンマ線が飛来するなど、ブラックピークをトレースする信号となるガンマ線を選択して撮像することが難しかった。
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