俺の相棒はロボット? 関西国際空港で自動清掃ロボット大戦がはじまる:楽しい大好きスタートアップ代表が見たロボット業界(2/2 ページ)
ロボット派遣・就職・教育サービスを手掛け、これまでロボットと共に5千人以上を接客した経験を持つ田中智崇氏が、関西国際空港で本格運用が始まった最新型自動清掃ロボットをレポートする。
清掃バリエーションの「swingobot2000」
オレンジ色のボディーが目立つ「swingobot2000」は複数の自動清掃パターンを記録できるのが特徴である。あらかじめ清掃したい場所のエリアパターンを12種類準備することができ、ボタン1つでパターンごとの自動清掃を行わせることが可能だ。作業速度は1時間当たり1.8kmであり、「Neo」に比べると低速(Neoのスピードで計算した場合は、1時間当たり約4.5km)であるが、それが、「ゆっくり清掃している」ように見えて、可愛らしさが感じられた。執筆時点で公表されている仕様を見る限り、自動清掃中のモニタリングと自動清掃後のクリーニングレポートはないが、クリーニングの終了やバッテリー残量の少なさ、そして、エラー発生等をメールで通知する機能は搭載されている。
障害物はLiDARとソナーセンサーで検知することで、自動回避する。また、タッチセンサーが前方下部に付いており、障害物に触れた場合は自動停止するよう設計されている。多少のセンサーの違いはあるものの「Neo」との大きな違いはなさそうである。ただし、デモ運転を拝見した限り、障害物の回避の仕方に大きな違いがあった。「Neo」は、1mぐらい手前で、障害物を検知し、少し大回りで回避したが、「swingobot2000」は直前に障害物を検知し、ギリギリのルートで回避していた。両者とも前方に搭載したLiDARで10m以上手前の段階で障害物は検知できていると考えられ、この回避の仕方は設計思想によるものだと考えられる。
自動清掃ロボットに頼るしかなかった
ここまでは、2台のロボットの特徴について述べたが、そもそもなぜ、自動清掃ロボットを導入したのかについて、筆者は一番の疑問を持った。世の中には、お客さまを接客するコミュニケーション型ロボット、愛らしいペット型のロボット、不審者を監視する監視カメラ型ロボットなど、さまざまなタイプのロボットがいる。マスコットキャラクターとしての役割を期待するのであれば、自動清掃ロボットでは少々、難しい。
この点について、関西エアポート株式会社の桐山氏は、「現在、空港では6時から22時の間で清掃作業を行っており、1日約150人のスタッフがこの作業に従事している。24時間運用を行っている関西国際空港では、国内外の御客様のために、空港を1日中きれいな状態に保ちたい。夜間清掃の着手も含め、さらなる清掃品質の向上に努めたいが、労働者不足の昨今では、人が集まらず、向上させることができなかった。そのため、テクノロジーの力に頼るしかなかった」と語った。清掃業務は裏方作業であり若者が集まるような華々しい仕事とは言い難く、年配の方が働いている姿もよく見かける。年配の方が夜間帯の清掃を行うには体力的な問題も出てくると考えられる。関西国際空港の清掃フロアの総面積は10万平米もあり、東京ドーム約2個分の広さがある。この広さを人だけで24時間きれいに保つためには、相当な人手が必要である。この2台のロボットは、現状清掃ができていない夜間帯を中心に、フロア清掃を行っていく予定だ。また、将来的には、清掃難易度の高いトイレ清掃にスタッフを多く配置できるようにし、フロア清掃はロボットを中心に行うことを検討しているそうだ。なお、昼間は顧客が少ない場所で清掃を行う機会もあるようだ。見かけられたら非常にラッキーである。
清掃という仕事の未来予想図
話が少々、脱線するが、ベトナムホーチミンに筆者が住んでいた頃、オレンジ色の作業着を着た清掃スタッフの姿をよく見かけることがあった。夜間帯に大きなリヤカーの様な物を引きながら、道端にあるごみを黙々と収集してくれていた。一緒に働いているベトナム人スタッフに確認したところ、自治体に雇われている清掃スタッフだそうだ。この方々の仕事がなくならないように、道端にごみを捨てるような習慣まであるそうで、事実、ホーチミンの道端にはごみがあふれていた。誰かの労働を守るためにごみを増やすという行為をすることには衝撃を受けた。一方、今回の導入経緯にもあった様に、日本は労働者不足であり、どの業界も労働者の獲得に頭を悩ましている。華やかな印象が薄い職業には、特に、労働者は集まりづらい。清掃業もその1つなのかもしれないのだが、筆者は清掃業の華やかさUPに1つの可能性を感じている。
今回導入された2台のロボットは、清掃場所まで清掃スタッフが手押しで運ぶことになっている。清掃場所に着くと、本体に付属しているパネルから清掃指示を出し、ロボットに自動清掃を開始させる。そして、タンクの汚水交換、充電やバッテリー交換等は全て人が携わることになる。また、「Neo」の場合は、どのスタッフがどの時間帯にロボットの運用を担当したかも記録できるようになっている。そのため、自分の清掃だけでなく、ロボットの清掃についても責任を持たなければならなくなる。ロボットを自分の相棒として、もしくは、自分の部下として効率的に働かさなければならないのだ。「私の仕事の相棒はロボット」と言うことができる初めての仕事になるのではないかと感じた。
また、それだけではなく、関西国際空港では、清掃スタッフによる清掃コンテストの開催も検討しており、有識者が清掃品質やスピード、接客対応力を判定し、優勝者を決める戦いの開催が見込まれている。
関西国際空港で始まった「Neo」と「swingobot2000」による自動清掃ロボットの競争、清掃スタッフによる清掃競争、そして、清掃スタッフと自動清掃ロボットによる協働。読者の方々も、関西国際空港に行った際には、ぜひ、清掃に目を向けていただきたい。
Profile
田中 智崇(たなか ともたか)
1979年生まれ。Many合同会社代表。サラリーマンのための自由なモノ作り集団FreeeeMakers共同代表。
大手ソフト会社で、IP電話、動画配信の研究開発(大学との共同研究)や国際空港のセキュリティシステム開発、国内外の携帯電話・PHS(10機種)の開発に従事する。
29歳の時に、エンジニアは技術以外のことも身につけなければならないと考え、公認会計士の勉強を始める。30歳で、富士通グループに転職後、上場企業への連結会計システムの導入支援、及び会計コンサル(担当クライアント30社)業務に従事する。
33歳で、IT系ベンチャー企業に転職し、新規事業やサービス開発の責任者を務める。
同社では、自治体向けパッケージソフト開発、スマホアプリ(100万ダウンロード突破)の広告プロモーション支援、モノづくりWebサービスの企画・開発・運営、ベトナム開発拠点の設立・運営に従事する。同社在籍時の最後に、ロボット派遣・就職・教育サービスを企画し、リリースする。本サービスのリリース前後では、ロボットに対する人の反応を調査するために、ロボットとともに5000人以上を接客する。
2017年に、【楽しい!】を提供するMany合同会社を設立。同社では、ロボットと映像と空間を活用したエンタテイメントサービスの提供に力を入れている。また、都内の理系大学にて、テクノロジーの楽しさを体感できる授業を定期的に開講している。
取材協力
田中 裕康(たなか ひろみち)
1975年生まれ。Many合同会社所属。
介護業界で、介護職、ケアマネージャ、営業、施設長として20年間勤め、薬を誤飲しない為に開発された介護ロボットの導入にも携わる。Many合同会社に参画後は、高齢者や障害者の方々が、今よりも楽しく生活するための商品開発(IT・映像・AIを活用)を担う。また、自身の結婚式のあいさつをロボットに実施させた経験を持つ。
関連記事
- おもてなしと喜びのダンス、デリバリーサービスロボ「Relay」が目指すもの
ロボット派遣・就職・教育サービスを手掛け、これまでロボットとともに5000人以上を接客した経験を持つ田中智崇氏がデリバリーサービスロボット「Relay(リレイ)」について紹介する。 - メイカーズから始まるイノベーション、ポイントは「やるかやらないか」
メイカーズの祭典である「Maker Faire Tokyo 2018」(2018年8月4〜5日、東京ビッグサイト)では、パソナキャリアの企画によるセミナー「メイカーズから始まるイノベーション」が開催された。 - 大前研一氏が語るAI、「使いこなせない企業は淘汰される」
技術商社のマクニカは2018年7月12〜13日、ユーザーイベント「Macnica Networks DAY 2018」を開催。その2日目にビジネス・ブレークスルー 代表取締役社長で、ビジネス・ブレークスルー大学の学長である大前研一氏が「AIと日本経済再生」をテーマに基調講演を行った。 - 鉄鋼製造はスマートファクトリーとの相性抜群、JFEが取り組む製造データ活用
技術商社のマクニカは2018年7月12〜13日、ユーザーイベント「Macnica Networks DAY 2018」を開催。その2日目にはJFEスチール スチール研究所 計測制御研究部 主任研究員(副部長)の茂森弘靖氏が登壇し「データサイエンスによる鉄鋼製品の品質管理の革新〜多工程リアルタイムセンシングデータの活用による価値の創出〜」をテーマに、局所回帰モデルを用いた鉄鋼製品の品質設計と品質制御により、品質向上や製造コストの削減を達成した事例を紹介した。 - AI搭載の対話型健康管理ロボットを活用した日本向け新サービスを検討
マクニカと米Catalia Healthは、日本のヘルスケア市場向けに、Catalia Healthが開発したAI搭載の対話型健康管理ロボット「Mabu」を活用した新サービスの検討を開始した。 - マクニカがメイカーズ向けブランド、第一弾はセンサーシールドとBTモジュール
マクニカが“メイカーズ”向けのソリューションブランド「Mpression for MAKERS」を立ち上げた。第1弾製品としてユカイ工学と共同で開発したIoTセンサーシールド「Uzuki」(ウズキ)、Bluetooth Smartモジュール「Koshian」(コシアン)を発売する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.