自己組織化でサッカーボール形状のタンパク質ナノ粒子を構築:医療技術ニュース
慶應義塾大学は、サッカーボール形状のタンパク質ナノ粒子「TIP60」の構築に成功した。小さな有機化合物を内部の空洞に導入し、TIP60同士を集合させてより大きな構造を作ることができる。
慶應義塾大学は2018年9月6日、分子が自発的に組み上がる自己組織化という現象を利用して、サッカーボール形状のタンパク質ナノ粒子「TIP60」の構築に成功したと発表した。小さな有機化合物を内部の空洞に導入し、TIP60同士を集合させてより大きな構造を作ることができる。同大学理工学部 教授の宮本憲二氏らのグループが明らかにした。
研究では、2種類のタンパク質を連結した人工融合タンパク質同士が60個自発的に組み上がって、最終的にサッカーボール状になるように設計。実際にこの人工融合タンパク質を精製した結果、設計通りに直径22nm程度のナノ粒子を形成した。
「Truncated Icosahedral Protein composed of 60-mer fusion-protein(TIP60)」と命名されたサッカーボールの形状は、切頂20面体と呼ばれる多面体であり、内部空洞を持つと同時に多数の孔が表面に開いていると考えられる。実際に外部から小分子化合物を添加すると、内部空洞に入り込み、TIP60内部表面の化学修飾によってTIP60に内包できる。
また、TIP60は全体的に負電荷を帯びているという性質も持ち、正電荷を持つ物質を加えるとさらに集合させられる。集合過程はランダムな凝集ではなく、一定のルールに従い集合する。
TIP60は今後、薬物輸送カプセルなどへの応用や、新たな分子構造を持ったナノ材料を作り出すためのナノブロックとしての利用などが期待できる。
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